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ネイチャーポジティブとインパクト投資(前編)

こんにちは、国際社会経済研究所(IISE)の篠崎裕介です。ネイチャーポジティブとデジタルの可能性について情報発信をしています。

この記事では、2023年10月19日にFabCafe Kyotoでロフトワーク社主催のもと開催された「Vol.3 自然資本投資と評価指標のこれからパティ・チュー(マナ・インパクト)×島 健治(SMFG)」の聴講レポートを、前編・後編の2回にわたってお届けします。


ESG投資とインパクト投資

三井住友フィナンシャルグループの島氏

三井住友フィナンシャルグループの島氏は以下、金融庁のインパクト投資等に関する検討会の資料をもとに、ESG投資とインパクト投資の違いについて説明されました。

ESG投資とインパクト投資
出典:金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書概要

一般的なESG投資は、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の取り組みについて評価し、投資比率などを決定するのに対して、インパクト投資は、その投資によって実現する具体的な効果を特定・コミットし、そのために企業へ投資するもの、としています。

政府としても、脱炭素や少子高齢化などの社会・環境課題の重要性が高まる中で、具体的な問題解決に取り組む組織活動への投資を推進するために、投資の要件、推進施策をとりまとめています。

インパクト投資を特徴づける4つの要件は以下となっています。

インパクト投資の4つの要件
1. 効果実現の意図 (Intentionality)
2. 投資で効果と収益を実現 (Additionality)
3. 効果の測定・管理 (Identification, measurement and management)
4. 社会性と収益性と両立するイノベーション
 (Innovation/transformation/acceleration)

金融庁「インパクト投資等に関する検討会報告書概要

実際にインパクト投資を行う「マナ・インパクト」のお話

マナ・インパクトのパティ氏(画面左上)

インパクト投資に取り組むマナ・インパクト の共同設立者のパティ・チュー氏の話を伺いました。

マナ・インパクトは、「土地利用・食」、「海洋・沿岸」、「生物多様性・Nature-based solution」の3つ領域にフォーカスしたインパクト投資を行い、サーキュラーで再生型の経済を目指す組織を投資でサポートすることをミッションとしています。

講演の中では、東南アジアは非常に生物多様性が高いエリアであり、世界の半分の生物多様性ホットスポットがあるが、毎年1.2%の熱帯雨林を失うなど、自然資本が劣化しているといいます。

マナ・インパクトの投資領域

そこで、マナ・インパクトでは以下のような領域に投資を行っています。

マナ・インパクトの投資領域
土地利用・食
 再生型農業、トレーサビリティ、廃棄物からの持続可能な素材
海洋・沿岸
 養殖、サステナブルトラベル、プラスチックのサーキュラーエコノミー
生物多様性・Nature-based solution
 森林やサンゴ礁の修復、生物多様性の測定技術

投資先のスクリーニング基準

投資先をスクリーニングする際には、以下のような基準をつかっていると紹介されました。金融庁がインパクト投資に対して示した要件と共通しているな、と感じたものを太字*にしてみました。

マナ・インパクトの投資先のスクリーニング基準(抜粋)
1. Financial, industry, business framework
イノベーション*、スケーラビリティー、投資レディネス、リスク

2. Impact framework
Relevance(関連性)、depth(深さ)、additionality(追加性)*, amplify(増幅性)

3. Team framework
チームレディネス、経験、インパクトへのコミット*、ガバナンス、リーダーシップとコーチャビリティ(ネガティブフィードバックを改善に取り入れる能力)

実際の投資先ポートフォリオ

このような基準のもとに、実際の投資先として、以下が紹介されました。

Zublu:バリ、サステナブルトラベルプラットフォームを提供

Nazava:ジャワ、手ごろな水のフィルターを提供

https://global.nazava.com/

Katapult ocean:ノルウェー、海洋テックのアクセラレーター

Krakakoa:ジャカルタ、高品質チョコレート製造、農家の教育、トレーニング、公正な購入に取り組む

インパクトのあるビジネスに取り組む方々への提言

パティ氏の講演では、インパクト投資や、インパクトのあるビジネスに取り組む上で、重要な3つの観点の提言がありました。

  • Business/finance

    • 社会・環境の課題への理解

    • ビジネスモデルで解決する接点

  • Commitment

    • なぜ生物多様性があなたにとって重要か

    • なぜこの課題解決にあなたとチームが適しているか

    • あなたの過去のrelevantな経験

  • Impact

    • あなたがセオリー・オブ・チェンジ*に取り組んでいる社会、環境課題の指標を含めて明確にコミュニケーションできること
      *セオリー・オブ・チェンジ:目指す変化が、なぜ、どのように起こるかを示すもの。

今回のお話の中で「relevant」という言葉が何度も繰り返し聞かれました。この英単語は、なかなか日本語にしにくい言葉だな、と思います。「関係した、関連した」と訳されることが多いですが、「重要な」というニュアンスもあります。

マナ・インパクトの投資要件の基準では「2.Impact framework」の中にRelevanceがあり、最後の提言の中では、「あなたの過去のrelevantな経験」があります。

これは、つまるところ、インパクトを発揮したいと「あなたが」思っている課題が、どれだけ「あなたに」とって重要か、どう「あなたに」関係しているのか、関連しているのか、その当事者意識を問われているのだろう、と解釈しました。

後編はこちら

おわりに

今回の記事では、ESG投資とインパクト投資の違い、実際にインパクト投資に取り組むマナ・マナインパクトの取り組みについてレポートしました。次回の記事では、パネルディスカッションの内容と、自然関連財務情報開示タスクフォース「TNFD」内容について補足させていただきつつ、参加してのネイチャーに関する気づきを発信いたします。

生物多様性と経済Vol.4イベント情報

次回第4回は、2023年12月12日開催の以下となります。私も参加したいと思います。皆様と一緒にネイチャーポジティブを実現するために何ができるか、お話できることを楽しみにしてします。

本シリーズの記事

第1回:京都大学 広井教授に聞く「生物多様性と経済」

第2回:サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブ


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