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父親の育児参加が、明日を変える。「ファザーリング・ジャパン九州」

父親が家で笑っていると、
こどもはのびのび育っていける。

まず、この記事をお読みのお父さんにお尋ねします。普段、わが子とのコミュニケーションに戸惑っていませんか。パートナーである妻と何でも話し合えていますか。 家で、心から笑えていますか。

ファザーリング・ジャパン九州(以下FJQ)は、「笑っている父親を増やす」をミッションに、任意団体からスタートして、2012年にNPO法人となりました。家庭で父親が笑って過ごせるようになるには、家事・育児に主体的に参加する必要がある、というのがFJQのメッセージ。共同代表の一人、森島孝(もりしま たかし)さんは「家事・育児にイヤイヤ取り組むようでは笑顔になれません。でも、家族の一員として自ら考え、工夫をすれば、やりがいが生まれて笑顔になれます」とおっしゃいます。

けれどそれは、父親に“第二の母親” を目指そうと呼びかけているのではない、とのこと。「父親が母親と同じようにこどもに接すると、場合によってはこどもは窮屈になってしまいます。そうではなく、たとえば母親がこどもの安全を守ろうと懸命になるタイプなら、父親は『多少ケガをしてもいい』とどっしり構えるなど、別の視点をもってほしいんです。家庭内に父と母という2つのロールモデルがあることで、こどもの視野が広がります」。

とはいえ、多くの父親は育児を学ぶ機会に恵まれていません。そこでFJQでは定期的にパパに向けた講座を開催し、こどもの発育段階に応じた接し方を教えています。特に乳幼児期の父親たちに説いているのは「幼い頃に取り組んだ育児の真価は、思春期に問われる」ということ。この時期にしっかり心を通わせなければ信頼関係が構築されず、思春期になったとき、わが子があまり心を開いてくれないのだそうです。大きな悩みを抱えがちな中学・高校の時期に、父親が安心感を与えられるかどうかは、幼い時期の関わり方が鍵になるのでしょう。

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育児を一手に引き受けるより、
まず妻とゆっくり話そう。

男性の家事・育児で、よく問題になるのは妻との意識のズレでしょう。「俺はイクメン」と胸を張ればチクリと言われ、妻の悩みにアドバイスすれば煙たがられ、家事・育児に指摘をしようものなら雷が落ちるというのは、よく聞く話です。FJQで父親の育児参加を呼びかける森島さんも、かつては理想的な父親像からはほど遠かったそうです。そんな森島さんが家庭の重要性に気づいたのは、大病を患い仕事を休まざるを得なくなったことがきっかけでした。

 「僕も、以前は『外で働いているほうが偉い』と勘違いしていました。だから、家でも仕事脳で話をしていたんです。妻の悩みに『結論から言って』と急かしたりして。でも夫婦の会話に、解決策はいらないんです。必要なのは、共に歩むための対話。妻の声に耳を澄まし、心をシンクロさせ、感謝の想いを伝えることです。また、ふだん家で何もしない夫が家事や育児に指摘をしたって、火に油を注ぐだけです。だから、まずは夫が率先してやってみる。自分がやって、改善できる点などを見つけ、妻と話し合う。そうすれば妻は意見を聞き入れてくれると思います」。

 一方、女性である筆者としては、妻からの努力も必要ではないかと思い、お尋ねしました。「そうですね…妻の家事・育児スタイルやマイルールは、説明しなければ夫には分かりませんから、何をしてほしいのか分かりやすく伝えてくれるとありがたいです。また男性の中には、実家で家事をせず育った人もいますので、初歩すら知らない場合もあるんですよ」。たしかに妻が十分な説明もなく怒り、未経験者かもしれない夫に “私の背中を見て学べ” という態度でいたら、夫はストレスをためるだけで家事に意欲をもてるはずがありません。妻からも、夫への傾聴・共感・賞賛が必要なのだと感じました。

「違う環境で育った二人が、結婚を機に共同生活を始めると、ライフスタイルなどのズレに最初に気づきます。愛情いっぱいの新婚時は、それでも何とかなるかもしれません。しかし、こどもが生まれれば途端に生活リズムは激変して、ズレがどんどん大きくなる。妻のワンオペ育児も厳しくなります。そんな軋みが生じる前の新婚・妊娠当初に、二人でしっかり話し合うことが大切です。」

家事・育児・仕事・将来設計について、二人がどんな価値観をもち、何を理想としているのか。日々のルーティン内ではなく、しっかり話し合う機会を年1回は設けてほしいと森島さんは語ります。FJQでは妊娠期の「プレママ・プレパパ講座」も開いているので、ぜひ二人同時に聴いてもらい、話し合いの機会にしてもらいたい、とのことでした。

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育休取得の推進は、企業にとって
有意義な先行投資となる。

厚生労働省は2021年7月、男性の育児休業取得率がようやく12%を超えたと公表しました。2022年4月以降施行の「改正育児・介護休業法」は、男性の育休取得をさらに後押しするでしょう。ただ、ここ九州では「社員が一人でも休むと経営が厳しい」と育休推進に積極的になれない中小企業が多いのだとか。筆者も、業種によっては育休取得が難しいのだろう、と受け止めている面がありました。

しかし森島さんは言います。「上司が育休等のワークライフバランスを考慮してマネジメントできなければ、いざ自分が介護を迫られたとき、周囲の理解を得られず苦労するでしょう。会社は、自分が抜けても回る組織でなければなりません。これは、自分が堂々と介護に当たれるように環境を整えるためでもあるし、若い社員に責任ある仕事を任せ、失敗や成功を経験させるためでもあるのです。」

事実、育休に前向きな企業では、経営者が「80%の労働時間で、100%の成果を」と目指し、一時的に利益減少が起きても「人材戦略上、必要な先行投資だから」と捉えているそうです。育児・介護休暇が取りやすい会社は、若く優秀な人材が集まり、社員の帰属意識が強く、社内連携もスムーズで、社員たちは短時間で結果を出そうとするなど、好循環が生まれやすい傾向にあるからでしょう。また、ベテランだけが残る先細りの状況から脱却し、多様な世代が活躍できる会社に生まれ変われば、持続的発展も期待できます。

でも社員の中には、仕事における自らの可能性に最大限挑戦したい人もいるはずです。そうした人はどうすればいいのでしょう?

「仕事に情熱を注ぎたいという正直な気持ちにふたをする必要はありません。ただ、精いっぱい働きたいのなら、環境をどう整えるかです。家族の応援を得るために、まず自分は家族に何ができるかを考え、仕事・家事・育児への取り組み方をパートナーとよく話し合うこと。夫婦はチームですから、お互いが納得すれば、そのありかたは自由です。専業主婦がいたっていいし、家計を支える妻と専業主夫の組み合わせでもいい。ただ、忘れてはならないのは対話です。」

特に仕事好きの人が意識しなければならないのは、自分を後輩のロールモデルにさせないこと。若手社員の選択肢を狭めかねないからです。FJQでは企業・団体向けのイクボス講座やフォーラムも実施しています。男性新卒社員の約8割が育休取得を希望している現在(出典:日本生産性本部「2017年度 新入社員 秋の意識調査」)、トップや今いる社員たちが一丸となって働く環境を変えていく勇気が求められています。

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育児不安を抱える父親たちへの
ケアが足りない日本。

「身近に育児話ができる友人がおらず、こどもの相談をしたり、愚痴を吐き出せる場がない」「育休中、職場での居場所が失くなるようで、今後、家計を支えていけるのか不安になる」―― これらは、育休を取得した父親たちが抱える悩みです。また、行政による父親サポートは母親対象のものより手薄で、男性にとっての育児環境は未整備と言わざるを得ません。

こうした孤独な父親たちのために、FJQではパパ友づくりも促進しています。FJQに集まる男性たちは、仕事・家事・育児を楽しく両立させようと努力する意識の高い人が多く、有益な情報も集まります。また「周りに同志がいる」と思うと、父親としての自分を肯定できるようにもなるそうです。

とはいえ、パパ友づくりや周囲との交流に自信のない方もおられるでしょう。実は森島さん自身も、コミュニケーションは得意ではなかったとのこと。「むしろ昔は地域との交流を面倒に感じていたくらいです。でも、こどもを連れて夏祭りなどに行くと、近所のおばさんやおじさんが声をかけてくれる。そうした方々がいてくれたことで、地域になじめました。今では、向かいに住む老夫婦のお宅へ、うちの子が上がりこんで面倒を見てもらっていたり、近所のママがうちの子にも目を配ってくれたりと、すごく助けられています。だから僕も、戸惑っている親がいたら気さくに声を掛けられる人になりたいですね」。

また「子育てに時間が奪われる」と焦る父親の気持ちは、森島さんも共感できるそうですが「とはいえ小学生になれば、こどもも少しは手が離れます。お手伝いできる年頃になれば、自分の時間も増やせる。大変なのは、せいぜい10年です。その10年を、妻と一緒に乗り越えるか。目をそらして、ずっと家族不和のままでいるか。少し先を見つめてほしいです。FJQのメンバーには育児と仕事を両立できている人も多いですから、ぜひ相談してみてください」とおっしゃっていました。

子育てに向きあえば、家での父親の居場所ができ、家族が味方になる。家庭というベースが安定すると、精神も安定して自信がつき、職場で堂々と意見が出せるようになる。子育てでメンタルが鍛えられ、マルチタスクもできるようになる。結果、会社が手放したくない人材になれる。さらに、家事・育児ができる夫なら、妻も心おきなく働けて、世帯収入が増える。森島さんのお話を伺っていると、男性の育児参加には「未来に希望をもたらす、たくさんのスイッチがありそうだ」と気づかされます。

最後にFJQの目標をお尋ねすると「もうこの活動はいらない、と言われて解散すること」とおっしゃっていました。FJQが元気に活動しているということは、未だ父親の育児参加が足りていない証拠。FJQには、多くの男性や企業、政治など、働きかけなければならないものが、まだたくさんあるのです。


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NPO法人 ファザーリング・ジャパン九州
代表理事  森島 孝さま

★NPO法人 ファザーリング・ジャパン九州 概要

◆所在地 :福岡県福岡市
◆設立  :2010年4月4日、ファザーリング・ジャパンの
      九州支部として旗揚げ(2012年7月1日NPO法人認可取得)
◆お問合せ:Email / info@fjq.jp
◆詳しく知る
◎webサイト  https://fjq.jp/
◎Facebook    https://www.facebook.com/fjqpapa
◎Twitter      https://twitter.com/fjqpapa