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東京流れ者

Tokyo Drifter (1966)

 鈴木清順監督・渡哲也主演の任侠歌謡アクション映画。共演は松原智恵子、川地民夫、二谷英明、郷鍈治ほか。渡は前年映画デビューしたてのフレッシュな新人スター、かたや清順監督は翌年の「殺しの烙印」を最後に「わけのわからない映画を撮る」という理由で日活をクビになります。

 カルトな人気を誇る清順監督ですが、私が最初に見たのはずっと遅れて「ツィゴイネルワイゼン」だったと思います。独特の映像美はすごいと思いますが、ストーリーの『見せ方』がちょっと自分にちょっと合わない気が。テレビに出ていた面白いおじいちゃんというイメージのほうが強いですね。

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 いわゆる「清順美学」って言うんですか、美術監督を木村威夫が務めた絵面はさすがにすごい。ポップとかサイケとか通り越して、もはやSF的ですね。そういうところはすでに語りつくされていると思うのですが、王道でわかりやすい川内康範の脚本が重しになっているからか、清順作品のなかでもかなりわかりやすい映画になっているんじゃないでしょうか。東京 → 庄内 → 佐世保 → 東京という舞台遷移も明確で、それぞれのカラーがあります。ただやっぱり筋運びのリズムが独特過ぎるんで、私の心地いいリズムとずれるところも多少なりともあるにはあるのですが。自動車の解体とか、酒場の乱闘とか、いつまでこのシーン見せられんのかなあ、みたいな。

 松原をはじめとする共演者も、それぞれそれなりの見せ場はあるのですが、本作はやっぱり渡の映画なんですね。(松原は渡より年下ですが、俳優としては先輩だったはず) 印象には残りますが、渡を脅かすような存在感はないし、求められてもいないでしょう。「流れ者には女はいらねえんだ」をはじめとする本作の名台詞の数々は、渡のものです。そう言う意味では、斬新な絵面はともかくとしても、清順監督のやりたい放題に終始している訳ではなく、制作側の要求にはきちんと応えている作品と言えるでしょう。さり気にドライヤーの広告も入れてきますしね。

 本作は、渡が公開前月にリリースした主題歌とのタイアップが主軸のようで、インストバージョンや松原の歌唱でも劇中に何回も流れます。1965年に竹越ひろ子が歌った曲が元々ありまして、本作の主題歌(クラウンバージョン)は、脚本の川内が川内和子名義で竹越バージョンとは異なる詞を書いたもの。「東京流れ者~ ♪」の節回しも違います。「スクール☆ウォーズ」で川浜一のワル:大木大介(演:松村雄基)が「風はひとりで吹いている~ ♪ 月はひとりで照っている~ ♪」と口ずさむのは、このクラウンバージョンのほう。

 渡は後に、節回しは竹越バージョン、歌詞の異なるテイチク向けの歌を残しています。テイチクバージョンのほうが巻き舌でやさぐれた歌唱ですね。やさぐれと言えば、藤圭子(宇多田ヒカルのお母さん)のバージョン。石坂まさを作のまた別な歌詞で、これもめっちゃかっこいいです。そうなるとやっぱり梶芽衣子も竹越バージョンをカバーしてまして、「東京、流れもの~ ♪」と短いブレスが入るのがこれまたかっこいい。

 劇中で「佐々カズオの『ハートを握りしめろ』」と呼ばれる「一度でいいから 一度でいいから ♪」という曲、聞き覚えがあるなあと思ったら、清順監督の「河内カルメン」でも使われてましたね。調べると「燃える恋の炎」という藤原伸の曲だそうですが、藤原は後に本名の曽根幸明として「夢は夜ひらく」を(補)作曲した人物。藤圭子の同曲シングルのB面が、上述の「東京流れもの」でした。

 本作で使われているピストルはプロップガンですが、例えば北竜二のピストルがベレッタ風だったりとか、いわゆる「日活コルト」ばかりでないのがガンマニアとしては興味深かったです。

(文中敬称略)

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