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お風呂で小さな冒険の毎日を

たまに飲んだり、メッセージをやりとりする友人のnoteを読んで、相変わらず良い文章を書くなあ〜と感心したので、東京に舞い戻った今、僕も筆を取ろうとノートパソコンを開いた。

a person with depression.
という言葉が「うつ病患者」よりしっくりくるのは、その人の人生をまずは肯定する響きがあるからだ。もちろんうつ病は、当人にとって筆舌に尽くしがたいほどの苦しみだし、家族、恋人、友人、勤め先、地域、社会にも大きな影響を与える看過できない問題だ。でも、病名でラベリングされるほど誰かの人生は軽くはない。最初の一歩は、その人を理解し主体性を認めることだと思うのだ。

感心した文章はこれだ。何を隠そう、僕の基本的な対人スタンスが、まさにこれだからである。noteを通して、友人の思考と自分の思考が似通っていることを知るというのは、なかなかエモい体験だなと思いつつも、僕のここ一週間をふわふわと振り返ってみよう。

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僕のここ半年間は、何かを楽しいと感じることもなく、ただ時間の慣性に流されるまま、寝起きし、食事を摂り、たまに外出をし、心がすっかり吸水性を失ったスポンジのように、苦しみでずぶ濡れの状態だった。

特段、何かの役に立っている感触もなく、毎日食器を洗って、パソコンで仕事のやりとりをし、コードを書き、日報を出す。

売上になんの貢献もしていないし、とりあえず、自分いらなくね?というささやきをかき消すように、頓服薬を飲んだ、実は先日の通院時点で、服用量が最大量まで増えてしまった。

やはり生きるってのは難易度激ムズでは…。とスポンジが石化しそうだった。

そんな時、

「来週、地元帰るからね」

妻から毎年聞いている言葉が、また今年も部屋に響いた。

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ガスの元栓も閉めたし、戸締まりもしたし、主要な電源も抜いたし。よし大丈夫。

先週の日曜日、海外旅行で使う大きなトランクと背中にはパソコンを入れたリュックを背に、玄関を出た。3泊4日の旅行なら小さなリュック1つで行く僕からすると、妻との帰省は旅行よりも大変で大荷物なのだ。

あれよあれよと、この大きなトランクがいろいろなもので埋め尽くされ、本当にそれ必要?と議論する余地もなく、今、僕は新幹線の線路まで至った。

それにしても、暑い。そして、空が青い。こんなに、そらって青かったかな?

予定時刻のギリギリにホームへ到着した影響もあり、2人とも汗だくだ。

早く、早く扉よ開け!

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地元までは、最短で1時間30分。正直、今回の帰省は気分がどんより沈んだスタートだった。休職していたことや、休職後のこと、給与のこと、話題にされるのはちょっと嫌だなあ…。と、珍しく後ろ向きだった。

そんなことは知らず、妻はウキウキである。愛する姪と甥に会えるのだ。もう、何を買ってあげようか、何をして遊ぼうか、彼女の中で様々なプランが駆け巡っているらしく、僕の鬱々とした気持ちは新幹線の騒音にかき消されたようだった。

こんな時はお薬に頼ろう。

気がついたら、到着まで15分だった。寝落ちしていたのか、僕。

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地元の駅のホームに降り立つたびに、湿気に混じった草と川水の香りが混じった空気が鼻を刺激し、どんなに目をつむっていても、ここが故郷であることがわかってしまう。

ときには心をザワザワさせ、ときには安心をくれるこの空気は、なんというかスペシャルなのだ。

と、今回は、「ホッと」をくれる空気だった。

ホームに降り立った瞬間に、心身の緊張が解け、歩調も自然とゆったりとし、呼吸すら深くなった気がした。これまでの僕は、常にどこかが「戦闘状態」であったのだろうと、そっと自分を自分でねぎらった。

お前、なんか頑張りすぎじゃね。たまには休めよ。良くやってるよ。って。

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改札を抜け、駅舎から出る。

駅舎の前にポツリとある喫煙スペースで、タバコを咥え、嘆息する。

今年も夏が来たんだ。とようやく思えた瞬間だった。

そんな時、目の端にこちらを指差す男の子が侵入してきた。我が愛する甥である。僕のニックネームを連呼しまくっているではないか。

もう、ちょっと恥ずかしいな。でも、嬉しいな。

こうして、久しぶりに甥との日々が始まった。

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もう、そこは動物園だった。妻の実家に帰宅した瞬間に、甥、姪、犬からの猛襲。

もう20時だよ?

「私とお家屋さんごっこしよー!」

「ダメ!僕とレゴで遊ぶの!」

「ワンワン!」

慣れているはずの猛襲が、今回はなんだか嬉しかった。こんなに自分に隠そうとしない好意をぶつけてきてくれる存在が、この世にいることが、とてもありがたかったのだ。

そんな想いに浸る間もわずかで、部屋着に着替え、僕も一緒に動物になったのだった。

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彼、彼女が話す内容は、刻々と変化し、まったく理解不能な内容から、そんなことまで話すようになったの!と感心する内容まで多岐にわたるが、今回のハイライトは姪からの「髭気持ち悪い」だ。

近い将来、「伯父さん、気持ち悪い」と言われる時を想定して、心の準備を整え始めていた僕は、想定外の早さに閉口してしまった。

え?今ナンテイッタノ?

「髭気持ちわーるーいー!って言ったの!」

「ヒゲキモチワルイ?」

「???」

「髭!!!」

「こいつかー!僕の姪に気持ち悪いと言われているやつは!」

流石に、髭を今回ばかりは剃ろうかと思案した。気持ち悪いって、流石にショックすぎる…。

でもね、ごめんね姪よ。僕はこのままで行く!だから、姑息だけど

「お髭生えている王子様もいるんだよ?」

そうだ、姪は「王子様=イケメン」という公式に囚われている。そう考えた僕の策は、「王子様→髭生える王子様」とリフレームを試みることだった。

「そんな気持ち悪い王子様いないもん!髭嫌い!」

完敗である。圧倒的敗北感。

それを見ていた妻と、義理の妹に

「どんまい」

慰められた。そして、フォローないのかよ。ぐすん…。

言ったらスッキリしたのか、姪は普段どおり僕と遊んでくれた。(嬉しい)。

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ある日、プールに連れて行った。初めての大きなプールらしく、ふたりとも小躍りしながら僕の後をついてきた。

そして、プールに入った瞬間、泣き始めた。

足がつかない〜!怖い〜!

ほら、見ろ。

そして、僕の泳ぎを見よ!

ココぞとばかりに、潜水し、背泳ぎを披露し、2人を見ると、見てねえええええ。

どうやら、初めて着用したゴーグルに夢中らしく、僕のことは眼中にないようだ。ぐすん。

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「今日も伯父とお風呂入るんだ!」

それ昨日も一昨日も言ってたね。帰省すると、甥とのお風呂は僕の担当というか、専属となる。

先日のプールでゴーグルが気に入ったのか、「ねーねー!潜ってみて〜!」というリクエストが耐えない。もう、さっきから5回くらい伯父さん浴槽に潜ってるけど?

どうやら、僕の潜りに飽きたのか、ようやく自分で潜る練習をし始めた。潜るたびに「どうだった?僕潜れてた?」

ええ、めっちゃ海藻みたいだったよ。

なんて言えないから「すごいね〜!でも、伯父さんの方が凄いな〜」なんて張り合ってみては、甥も負けずに潜り方を工夫したり、自分で目標設定したりするようになってきた。

なんて、微笑ましいバスタイム。そして、僕はもうのぼせそうでクラクラしているんだけど、まだ潜るの?

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3日目のお風呂から、甥は潜る前に敬礼をするようになっていた。

「甥隊員、行ってきます!」

「甥隊員、行ってらっしゃい!」

と返す。さて、どこに行くの?

「ぷはー!ぶるぶる。ペッペッ」

潜水から戻ると、毎回この動作。そして

「今回は洞窟に行ってきました!(敬礼」

いつからか、浴槽は甥の中で「ダンジョン化」していたようだ。そして、そこに使っている僕は「目的地までの障害物」になったらしく、

「ダメ!足はこういう形にして!」と障害物の形状指定までされるようになった。

うーん、僕もうのぼせそうなんだけど、まだ潜るの?

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「今日も、伯父さんとお風呂はいるんだー!」

「伯父さんも疲れているんだから、今日はパパと入りなさい」

「ヤダ!絶対にヤダ!」

義理の妹からの助け舟も虚しく、今日も甥とお風呂だ。

「だって伯父さん明日帰るでしょ!今日だけだもん遊べるの」

「一緒に入ろっか」

「うん」

そう言われてしまうと、一発OKしかできないじゃんか。甥よ。

何回も指摘しているのに、直らない癖があった。

ゴーグルし忘れて溺れそうになりながら浮上してくる。

ということだった。

「なんでゴーグルしてるのに、しないままで潜るの?」

「だって、忘れちゃうんだもん。伯父さんだって、忘れ物しちゃうでしょ?」

まあ、そう言われると、そうだね。としか言えないんだけど、灯台下暗し的なアレのことかな?

その日も、10回は甥、潜った。その指摘をしても、半分の確率でゴーグルかけずに潜った。そして、また甥が「なんか忘れちゃうんだよな〜」と呟き「では、行ってまいります!(敬礼」と浴槽に小さな体躯を沈め、僕は日に焼けてない真っ白なお尻を眺めつつ、浣腸でちょっかいを出すのだった。

「もう!浣腸はダメだって言ったでしょ!」

と甥に怒られつつも、この時間が甥の人生でどんな彩りを放っているのか、その彩りの1色に僕はなれているのだろうか、たぶんなれているんじゃないかな、だとしたら、嬉しいな。

そんなことを想った、夏の日のお風呂での冒険談。

来年は、どんな冒険する?甥よ。

僕にとって、今年のお風呂での冒険は、鮮やかな色を放っていたよ。

※引用したnoteに感化されて、甥や姪は僕の存在全てを肯定してくれる存在でありがたい、ということを伝えようと文章を書いたら、思い出日記みたいになってしまったことを、文末にて注記しておきます。





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