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ひかりに透ける

秋晴れっていいよねえと、となりで布団に寝そべっている友だちがつぶやく。
春晴れとか冬晴れとか、あんまり言わないじゃん。それってたぶん、みんな秋晴れにはかなわないって知ってるからなんだろうね。

そう言った彼女の茶色い髪の毛が、窓から差し込んでくる光にあたってきれいだった。

高校のとき同じクラスだったことがきっかけで仲良くなって、今もなんだかんだ月1で会う。わたしはあまり自分の話をしないのだけど(だからこうして短歌や文章を書いているのかもしれない)、彼女はどんなエピソードもあっけらかんと話してくれる。

泊まったその日に元カノのパジャマを貸してくるような人と付き合ってしまったこと、二重まぶたの整形手術をしたのにすぐ取れてしまったこと、マッチングアプリで出会った人に騙されかけたこと。

散々な目にあったよぉ、と言いながら立ち飲み屋でお酒を飲むとき、彼女はいつも傷つきおわっていて、とくにさめざめと泣くことはない。次だ次、動かなきゃはじまんないよねえ。もうお腹いっぱい、無理、でもハイボールは飲む。

もっとかわいくお酒に酔える女になりたかった。土曜日の夜、ふたりでワインのボトルを片付けたとき、彼女が言った。だめなんだあ、わたし。結局ねえ、自分が傷つくのがこわいからねえ、こんな風にぜんぶ終わってからじゃないと話せないの。
うん。透明なお皿に盛り付けられた、干からびてしまったカルパッチョをつまむ。
少しの沈黙のあと、いつも笑いながら自虐を交えながら話す彼女が、独り言のように静かに言った。

ほんとうはずっと好きな人がいるんだけど。

え、そうなの。うん。はじめて聞いた。はじめて言った。なんか、好きだって認めちゃったら終わりな気がして、こわくて言えなかった。なにそれ、そんなことないよ。だって、わたし今までがんばったことがない。大学だって就活だってスルスル終わらせたし、なんだってすぐ辞めちゃうし、ちゃんとした恋愛経験だってない。

ぽつぽつと語る彼女を見つめながら、彼女は傷ついた自分をもっと傷つけることで自分を守ってきたのだ、と思った。こんなの、どうってことないよ。いつもそう言っていた。そう思うことで、過去の自分を笑い飛ばすことで、強くなろうとしていた。
でも、ほんとはどうってことあった。つらかった。泣きたかった。

溜め込んでいた好きな人の話を、長い長い歴史の話を、変わらない明るさで話してくれた。こんな話しちゃったのぜったいワインのせいだ、と笑う彼女は誰が見たってかわいくお酒に酔える女の子で、わたしは勝手にうれしくなる。
無理して自分を卑下する必要なんてないんだから。

そのまま流れ込むようにわたしの家にきて、ワイワイ騒ぎながら隣り合わせに布団を敷いて、一枚しかない冬用の布団にふたりでくるまって眠った。

わたしが目を覚ましたとき、彼女はもう起きていた。すっかり明るくなった日差しは午前中のものではなくなりそうになっていて、おはようの前にいい天気だね、と言う。きもちいね、秋晴れだ。

そして、冒頭に戻る。

どこまでも真っ直ぐな彼女のなんでもないつぶやきを、この先も秋晴れの空を見るたびに思い出す気がした。たぶん明日も明後日もしゃんと背筋を伸ばして笑っている彼女に、あふれんばかりの幸せが訪れればいいな、なんて願いながら。


歪めないことが苦しいときもある爽やかすぎた秋晴れの下


#エッセイ
#センチメンタルオータム

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