映画『花束みたいな恋をした』を観ました。

観ている途中から、「あ、この映画はわたしの中で記憶に残る作品になる」という確信があった。

観終わってすぐのこのホヤホヤの感情を忘れたくないので、感想と銘打ちながらただただ思いの丈を綴らせていただきます。
がっつりネタバレもしているので、まだ観ていない人はお気をつけて。

終電を逃したことがきっかけで知り合った、絹ちゃん（有村架純）と麦くん（菅田将暉）。この映画は、そんなふたりの甘く切ない花束みたいな恋をした5年間を描く、純度100パーセントのラブストーリーです。

もうあらすじがすべて。ほんっとにこれだけ。ふたりの5年間をただただ見させてもらう、それだけです。

たぶん、人によっては全然響かない人もいるんだと思う。
正直、「いやそれはご都合主義すぎませんか？」みたいな展開や演出もある。「そんなんにだまされねえからな」みたいな気持ちにもなる。
「ふたりともおそらくそんなに給料よくないだろうからそんないい部屋に住めないでしょ」とか、「なんでいつまでたっても部屋が荒れないんですか」とか、「いやそもそもライブ逃したとかいうけど、そんな好きなライブの時間逃してまで1回だけデートした人とご飯行きますか！？」とか……言い始めたらキリがないっちゃない。

でも久しぶりに、恋愛映画を観て涙が止まらなくなった。別にどちらかが大病を背負うわけでも、ふたりが死別するわけでもないのに。

それは結局、恐ろしいほどに登場人物たちに共感（というか自分を重ねちゃったから）なんだと思う。絹ちゃんと麦くんの日常は、ささやかで慎ましくて、先に言ったように生死が絡む大きな出来事もなければ、大変な事件に巻き込まれたり、浮気をしたりなんてシーンもない。（ぶっちゃけ絹、おまえオダギリジョーとはやったやろ？せめてキスはしたろ？とは思うけど、それも別に作中で描かれるわけではない）

ただ出会って、恋をした。それだけのこと。うれしいことや楽しいことを共有して、だけどだんだんすれ違って、いつしか心が交わらなくなった。ただ、それだけの日々のこと。

麦が、就活で圧迫面接を受けて悩む絹に「その面接官はきっと、今村夏子さんの『ピクニック』を読んでも何も感じないよ」と言ったとき、絹はきっと心の底から救われたんだと思う。だから、それから何年か経って、同じように落ち込んだ麦にも同じ言葉をかけた。でも、そのときの麦はもうあの頃の麦ではなかった。仕事に忙殺され、好きだったはずの絵も描かず、本も読まず、映画も観ない。つめたい仕事場で横になって無表情でパズドラをする麦を見て、心臓がぐるぐるした。つらくてしんどくて、でも「わかる」と思った。

菅田将暉が、インタビューで

と語っているのを読んで、腑に落ちた。

このふたりは、映画の主人公ではなかったのだ。映画を観たひとが、ふと自分の今までの人生を振り返ったとき、すれ違っていたかもしれない日々なのだ。

絹と麦がふたたび同じイヤフォンで音楽を聴くことは、きっともうない。それがわかるからこそ、はじまりと同じファミレスで別れを決めたふたりが、その後まるで恋人のように他人として生活するのをきちんと見守ることができた。

あと、セリフが言い回しが、とにかくさすが脚本・坂元裕二。

（※うろ覚えです）

絹や麦のように、自分の好きなカルチャーを追いかけながら生きてきた人にとって、心に刺さるとかのレベルではなく情緒をずたずたにされる映画だと思います。

（聞いてほしい。めちゃくちゃ個人的な話ですが、2020年に26歳という絹と麦の設定が、まずモロ被りなんです。1994年生まれのひとたち、ほんとに覚悟して。それなりに社会人経験も積み、少しずつ世の中の世知辛さを知って、ちょっと諦めながら日々を過ごすことに慣れてきた、そんなわたしたちを狙ってきている）

（そしてこの醸し出してくるサブカル感もドンピシャなんです……本とかマンガとか音楽とかぜんぶ……ぜんぶ知ってるんだ……「たべるのがおそい」出てきたとき声が出そうになった……）

奇跡で始まって、奇跡で終わる。そんなふたりの5年間の奇跡を、しっかりじっくり観ることができてよかった。たった2時間で5年という年月を感じさせられるのはすごいと思う。

もう一度観るときは、すこし時間をあけてからがいいな。そのとき誰と一緒にいるのか、今はまだわからないままでいい。

©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

P.S. カラオケ屋さんみたいなカラオケに行きたくなりました。

#映画 #花束みたいな恋をした