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昭和前期政治家の愛読書

拙著『帝国図書館』(中公新書)執筆中に調べていた新聞記事で、「ああこれ面白いなあ」と思いつつ、うまく組み込めないので使わなかった史料がある。

『読売新聞』1933年(昭和8年)10月30日付の記事で「現閣僚は何を愛読するか?読書家揃いの現内閣に提出した二つの質問」というものである。

質問は2つ

(一)何を好んでお読みです
(ニ)青年の頃感激した書物

齋藤実内閣(1932.5~1934.7)の閣僚が、これに答えている。

まず齋藤首相(1858~1936)。
最近は忙しくて読めないとしつつ、若い頃は『日本外史』を愛読したという。

齋藤実

廣田弘毅(1878~1948)外相は、20年来就寝前にひもとく本として『論語』を挙げ、若い頃は王陽明の『伝習録』を愛読したという。

廣田弘毅

鳩山一郎(1883~1959)文相はというと、「最近書籍の濫造」に苦言を呈しつつ、夏目漱石の「草枕」と「二百十日」に魅せられたという。

鳩山一郎

三土忠造(1871~1948)鉄道大臣は、最近は、セント・ポール寺院の僧正イングが著した『イングランド(英国論の名で邦訳あり)』に感銘を受けたといい(Inge, William Ralph (1860-1954)のことと思われる)、青年時代には『日本外史』『日本書紀』を読んで感激したという。両書は「全巻を通じて一貫した精神を有している」という。

後藤文夫(1884~1980)農林大臣は、最近読んだ本では徳富蘇峰『改訂版国民小訓』、青年時代にはモムゼンの『ローマ史』を読んだとしている。

小山松吉(1868~1948)司法大臣は、最近読んだ本では徳富蘇峰の『近世日本国民史』『宋明名臣言行録』若い時には『平家物語』を読んだという。

『日本外史』をはじめとした歴史が人気だし、さらに蘇峰人気も強い。このあたりのことは「天下の大勢」の政治思想といかに関わるか、ちょっと知りたい。

永井柳太郎(1881~1944)拓務大臣は最近はもっぱら毎朝『日蓮遺稿集』を読み、若い時はカーライルの英雄論も読んだという。

永井柳太郎

南弘(1869~1946)逓信大臣は青年時代には矢野文雄『経国美談』『佳人の奇遇』のほか近松物を耽読したという。

こういう企画が成立するというのも、時代であろうか。
国際連盟を脱退し、京大滝川事件のあった年の出来事だというと、また見え方が変わってくるかもしれない。

世代別で掘り下げるともっと色々考えられそうだが、少し材料が足りない。

*この記事の使用画像はすべて「近代日本人の肖像」より


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