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無気力が世界を照らすとき


「何もしない」


この言葉に、あなたはなにをイメージするだろう?




私は人生の7割くらい、ごろごろして生きてきた。

基本姿勢は体を横にするスタイル、ユニフォームは体を締めつけないパジャマとあったか部屋着。
睡眠時間は8~13時間くらいで、昼寝もいとわない。

時折あまりにも動かなさすぎて静止画かな?と自分で疑うほど、それはもうごろごろどころか、ごろ×100。


昨年まで一緒に住んでいた友人達は、リビングに転がる私が動き出すと「出かけるの!?すごい!!」、キッチンで浴槽の追い炊きボタンを押すと「お風呂に入るなんてすごい!!」と天然記念物のように讃えていた。

「暇じゃない?」
とよく聞かれる。

「やりたいこととか、生きがいは?」
とも聞かれる。


どうやって暮らしてるの?

この先どうなりたいの??????




ハシビロコウという鳥がいる。

アフリカの湿地や草原地帯に生息する現在世界に5000〜8000羽という希少な生き物で、こんなに眼光が鋭くてキメ顔だけど「動かない」ことで有名な鳥である。

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(めっちゃ鋭い)


動物園で見てきた人によると、鳥の彫刻しかないじゃん!と勘違いしたくらい微動だにしないらしい。

彼らはじっと動かず、好物のお魚を捕食する機会を狙って待ち伏せし、ターゲットが水面に上がってきた瞬間くちばしを突っ込み丸呑みする。

寿命は30〜40年で、高齢になると瞳の色が金から青に変わるというから不思議。(挨拶や求愛をするときはお辞儀するらしい。キュート。)


私にとって人生の動いている3割は、捕食と似ている。
自分の欲しいものをゴルゴ13のように獲りに行く。

ある時は「わたし友達になりたいと思った人とは絶対仲良くなれるんだ!」とおしゃれ女子を突撃し、ある時はケーキ争奪じゃんけんに全力をかけ、くじ運がいいからと父に送り出された抽選会では自分が欲しかったローラーブレードを引き当てた。

憧れだった音楽はアイドルのMV🔥になり、「自分好みのイケメンと一発やりたい!」という閃き企画は結婚💒に化けた。


気がつけば、実家から日帰り旭川旅行に出かけたはずが東京で暮らしている。なぞ。




「今、何をしてるの?」


この質問の破壊力は凄まじい。

自分は一体何者で、何のために生まれ世に貢献しているのか生きているのか簡潔に答えよ、という圧迫感を勝手に感じてしまう。

周りの友人やSNSを見れば、明るくハツラツと働き活躍する人達が目に入り、焦りと羨ましさにジリジリと心が焼かれる。


あれは結婚式翌日のこと。

式場近くのホテルで朝を迎えた新婦の私は、やる気がなさすぎる自分は人間に相応しくない死にたいと号泣していた。(気の毒な新郎)

あまりに泣くものだからフロントに電話してチェックアウトを遅らせた彼に「今は何がしたい?」とやさしく問われ、嗚咽と共に咄嗟に出た言葉は


「何もしたくないけど、世界を変えたいっ」


新郎は笑いすぎて呼吸困難に陥った。
レイトチェックアウトは追加料金で6000円だった。


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(それぞれ直前まで「もう行きたくない!」とか喧嘩してリハに来ないとか大騒動だった3組いっしょの結婚式)



「昨日夫が霊に取り憑かれた!」グループLINEに招集がかかった。

初の離婚危機!盛り上がる友人たちの声を聞いていたら何故だか泣けてきて(霊は無事出ていったらしい)、萎びたイモムシみたいになっていた私は今何もしたくないんだお金もあまりないと初めて暴露した。

つまらないやつだと思われるのが怖くてずっと言えなかったのだけど。


「むしろ面白すぎるでしょ!無気力でもやる気があっても、くりはくりだからどっちでもいいよ!味噌送るね!」

「私も今何もしたくない時期だから、自分を貫いてる姿にパワーもらってる!そのままでいてくれてありがとう」

「動かなくていい、バイブス良くごろごろしてほしい!」


相談に乗って欲しいという相手に「今無気力だよ」と話していたら、「やる気出てきた!色々やってみる!!」と何故か元気に去っていった。


残業続きで忙しそうな彼に、家でゆっくりしてる人間がいるのってどう思う?と聞いてみたら

「今は仕事を頑張りたいから自分に余裕がない分、逆にゆっくりしてる人がいてほしい。あなたは俺にとって『余裕』の外付けハードディスクだから

最近は疲れると自動的にあなたの姿が脳内に映し出されて余裕を感じるんだ、と言われた。それはちょっと怖いと思った。



すっかり忘れていたけれど。

昔から家に居すぎた私は何をそんなに書くことがあったのか、毎日長文の日記をしたためていた。

死んだ小鳥を見つけてお墓を作ったこと、夕方図書館から見た虹のこと、暇が極まって海でゴミ拾いをしたら(チャリで片道1時間半)集まりすぎて帰りが死ぬほど大変だったこと。

ひたすら厨二な詩を書いて人に見せまくっていたら、年上のお姉さんが「最近恋人を交通事故で亡くしたんだ、この言葉素敵だね」と泣きながら教えてくれた。


それは孤独でおバカで、かけがえのない日々の記録だった。

思いを巡らせ余裕をたたえる今このときは、全然映えなくたってエラくなくたって紛れもなく尊い人生なのだと胸のあたりにある光が叫んだ。


今まで、あなたは生きることに手を抜いたことがあったかい??


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私が、ごろごろするという今を真っ直ぐに生きてみる。


その状態を

「 寝 神 」


と名付けてみた。


寝仏ならぬ、自分の心地良さを謳歌する寝ている神様である。


📝寝神(NEGAMI)とは…??

心の赴くままゆっくりのんびりしている状態
また、自ら率先してごろごろすることにより世界に余裕を生む存在


今動きたくないならば、世界平和を真っ先に自分から始めてみようじゃないか。


「どんどんいくぞ!」という爆裂活動モードの"起神"も素敵だけど。

太陽と月のように、もしかしたらやる気と無気力は絶妙なバランスでこの世界に保たれているのかもしれない…とそこかしこで目にするリラックマとぐでたまグッズに思う。


今日はダラダラして終わっちゃったなぁって人間が罪悪感ではなく、寝神として「何もしない」を輝かせたらどうなるかな??

逆にやる気が溢れてしまって、今度は風が吹けば桶屋が儲かる的に「世界が余裕不足」で見知らぬ誰かが寝神になったりするかもしれない。

そんなことを考えながら部屋で日光浴をしている。



「正しさ」はよく分からない。

ただ自分にも人に対しても、それぞれの中にある美しさを見つけられる私でいたいと思う。



寝神ぼしゅう中です


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