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ある日突然、なんの前触れもなく私は「加害者家族」になった

1. 

 ウサギを飼っていた。

 モモコという名の、毛並みの綺麗な白黒のウサギだ。
 モモコは葉っぱが大好きで、中でも千切ってきたタンポポや雑草が大好物。口をモゴモゴさせながら貪り食うのがたまらなく可愛いのである。私は外へ行く度、必ずモモコへお土産を持って帰った。

 「ただいまー!!」

 不登校で引きこもりがちだった私にとって、学校に行くこと自体が一大イベントだ。その日は久しぶりに小学校へ行けて気分が良かったのだろう、いつも以上に大量のタンポポを手に、勢いよく玄関のドアを開けたのだった。

 リビングで付きっぱなしのテレビに、いつも通りのゲーム画面。テーブルの上へと置かれたノートには、攻略本顔負けのダンジョンマップが書き込まれている。
 画面に目を見遣ると戦闘途中のまま「たたかう」コマンドが点滅していて、無造作に置き放たれたコントローラーが寂しそうに主人である母の帰りを待っていた。おおかた、トイレにでも行っているのだろう。

 実際、こんな狭い家では推理小説のように母の行方を推察をする間も無く、ものの数秒で居場所は判明する。いつもそうだ。現実では事件なんて滅多に起こらないし、私が物語の主人公になるなんてこともない。

 …ほら、流水音がする。案の定、母はトイレから出てきた。またゲームに没頭するのだろうと母の動きを見ていると、いつもなら一目散にテレビの前へ座るはずが、なぜかキッチンの椅子に座ってボーッとしはじめた。

 そんな母に声をかけるような愚行には及ばない私は、聡明で空気の読める小学3年生である。
 「触らぬ神に祟りなし」という諺を本から学んだばかりで、母を怒らせるとどうなるかを誰よりも知っていた。ここは黙ってモモコにタンポポをあげるのが正解だ。

 しかしそんな私の気遣いなど御構い無しに、母はモモコと私の前までやってきた。そしてタンポポの綿毛を一瞬で吹き飛ばすかの如く強烈なワードを口にしたのである。

「パパが人を轢いたって」

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