見出し画像

【一人読み】私の事も…

性別不問 人称変更可 語尾変更可

✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
シトシトと静かに空が地を濡らしていた。
私はその中を一人で歩いている。
どうせ誰も見ていないだろうと持っている傘もささずにただ真っ直ぐに。
もう何時間…。いや何分歩いていたのだろう。
ふと。窓に映った自分が目に入った。
そこに映っているのは瞳に光が点っていない哀れな女がただ一人。
はは…。なんて滑稽な姿なんだろう。
昔は花から花へと飛び回る蝶の様だと言われていた。
綺麗だね。可愛いねともてはやされて。
私もその気になっていた。

そんな私がたった一度の失恋でこんな姿になるなんて。
ありふれた恋だった。
手を繋ぎ。
キスをして。
愛を語り合った。
それでも私にとっては特別な恋だったんだろう。
初恋だったわけでも、長く続いた関係でもなかった。
それにいつかは別れるのだろうとも思っていた。

それなのにあなたが他の人の元へ行くことが許せなかった。
私以外の人に優しい言葉を囁くことが許せなかった。
気付かなければ、見ないふりができていたらこの関係は変わらなかったのかもしれない。
それでも気付いてしまったし見て見ぬふりなんかできなかった。
私はあなたの瞳を真っ直ぐ見つめ告げてしまった。

「さよなら…私の恋人だった人」

そのまま彼の言葉も聞かずに雨降る街へと飛び立って…。
気が付いたら今となっていた。

ヒラリと何かが後ろで落ちた気がした。
気のせいだと思っても何故か気になって仕方がなかった。
振り返っても何も…誰もいない。
やはり気のせいか…。
もう消えてしまおう。
私の居場所は何処にもないのだから。
そう思い再び足を運ぶ。

クシャ…。

その時私は初めて気が付いた。
私の足元にいた一匹の蝶に。
私が儚い命の灯火を消してしまったのか。
はたまたすでに息絶えていたのか。
綺麗だった羽は粉々になっている。
まるで今の私のように醜い姿。
私は蝶を見つめポツリと言葉をこぼした。

「私の事もつぶして…」と。

おわり

✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
手に取って頂きありがとうございます。
拙い文字たちですが可愛がってくださると嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?