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【一人読み】想い出の交換日記

性別不問(女性推奨) 人称変更可 語尾変更可
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掃除の途中に書斎の棚から取り出した数冊のノート。
一番小さなノートに書かれていたのは、丸い幼い文字とちょっと不格好な文字。
交互に沢山の文字で埋められていくページたち。
ちょっと薄汚れているノートは私とあなたの初めての交換日記。

私の我儘から始まった交換日記。
断られるかなとドキドキしていたけど「仕方ないな」と返された日から始まった。
幼馴染との思い出の交換。
初めは。
友達と遊んだ。
勉強が面倒だ。
先生に怒られた。とか。
本当に些細な内容だった。
楽しい思い出も。
悲しい思い出も。
ノートの中でお互いの文字たちが踊っていた。
だけどいつの間にか面倒になってきたあなたからの返事は減っていき。
私も学業に追われ内容も薄くなっていった。
ついに、最後のページの真ん中には『受験期になるから辞めようか』と小さな文字。
辞めたくない…。
もっと話したい…。
そんな我儘が言えなくて。
ノートに滲んだ『分かった』の文字をあなたに託すしかなかった。

お互いに進学先が決まり荷造りをしていたら。
あなたから懐かしいものが見つかったとポストに届いた交換日記。
懐かしさと寂しさでノートを開くと。
私の最後の言葉の下には。
小さく掠れた『ごめんな』の文字と『向こうでも頑張れ』の力強い文字。
私はノートを抱え涙をこぼしていた。

あなたと再会したのは私が転職の為に地元へ戻った時だった。
職場で挨拶を交わしたときはお互いに驚いてクスリと笑ってしまった。
「戻ってきたんだな」と変わらない笑顔に安心と懐かしさを感じていた。
いつの間にか幼馴染は良き同僚になっていた。

ある夏の日に誘われた小さな花火大会。
忙しい事を知っていたけどあんな純粋な笑顔で誘われたら。
私はお気に入りの浴衣を身にまといあなたを待っていた。
何分待ても来ないあなたにちょっと悲しみを感じながら空に輝く花を眺めていた。
空を見ていないと寂しさで涙がこぼれる気がしたんだ。
「ごめん!仕事が長引いて…」
だから言ったのに…。
それでも息を切らしながら来てくれた事が嬉しかった。
お詫びにりんご飴ねっておねだりすると。
「仕方ないな」とあの時と変わらないあなたがそこにいた。
あの日見た花火綺麗だったね。

1年前の夏。
数人の友達と遊びに行った海で告げられた。
「好きです。付き合って欲しい」の一言。
信じられなかった。
私はあの交換日記を始めた時から好きだったから。
「いいよ。その代わり…。交換日記の続きしようね」
また、真っ白なノートに私たちだけの想い出を記していこう。
私とあなたの想い出は水面に反射してキラキラと輝いていく。
ねぇ。手つなごう…。
やっぱりあなたは「仕方ないな」と微笑んでくれた。
友達からの祝福という名の冷やかしを聞きながらまた新しい想い出ができた。

あなたとの交換日記もこれで10冊目。
ノートの中には沢山の想い出が広がっていく。
初めて喧嘩した日。
プロポーズされた日。
そして今日も。
まだまだ幼い文字と不格好な文字が交差する。

「また読んでたのかい?仕方ないな」
これからもよろしくお願いしますね…あなた。

おわり
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手に取って頂きありがとうございます。こちらは他サイトでの企画に投稿していたシナリオになります。
拙い文字たちですが可愛がってくださると嬉しいです。

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