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【映画レビュー】まさかのライブ映画だった!能楽エンターテイメント『犬王』の感想

見届けてきたぜ。

湯浅政明監督最新作『犬王』のざっくりとした感想

サイエンスSARU最新作『犬王』を観てきました。

犬王
制作年:2022年 / 制作国:日本
サイエンスSARU制作 / 97分
監督:湯浅政明

https://eiga.com/movie/91393/

『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』など今や世界に誇る名アニメーション監督である湯浅政明監督が、古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」を長編アニメ映画化。

脚本を『罪の声』などの野木亜紀子さん、キャラクター原案を「ピンポン」などの漫画家・松本大洋さんが担当し、音楽を『花束みたいな恋をした』などの大友良英さんが担当し、室町時代を舞台にした異色のミュージカル作品となっています。

前評判がとびっきり良いので、すごく楽しみにしていたのですが
本作を観てきた感想をざっくり一言で言うと……

秀作!

応援上映が緊急決定するのも納得の、後半はほぼパフォーマンスをじっくりみせるまさかのライブ映画。舞台は室町時代ではありながらも、当時の人がもしも現代のようなパフォーマンスを思いついていたら……という演舞をこれでもかとじっくり見せてくれます。

派手な演奏シーンも良いけど、一方で、目が見えず視覚以外を頼る友魚の視点をアニメーションで再現する映像がこれまた新鮮。馬の足音、それを背負う米俵の音、その米俵から落ちる米粒の音、それを食べにくる鳥の音……友魚がそれを感じ取るシークエンスは、2年前のアヌシー国際映画祭でも観ていたのですが、やはり改めて観ても見応えが有ります。

知らなくても楽しめるとはいえ、演目にはそれとなくストーリーがある部分は事前知識が必要ではあるレベルのものなので、十分な補助線がないと「なんかすごい」で終わりそうなのが惜しい点ではあります。


以下、ネタバレありでざっくりではない詳しい感想を書いていきます。

失われし過去を紡ぐ黒魔術

アニメーションという手法は、生のないものに生を与える黒魔術的な魅力があるわけですが、『犬王』で描かれる物語、そしてこの映画自体もまさにそのような作品でした。

目が見えない友魚と生まれつき異形の犬王が、敗戦した平家や名もなき雑兵たちの失われし声を演舞で現代に蘇らせたように、この『犬王』という作品がまた、歴史として世に残らないままだったはずの友魚や犬王の秘められし功績を現代に蘇らせるような作品となっています。

(C)2021 “INU-OH” Film Partners

いきいきと表現する友有座の演舞のダイナミックさと反骨精神、声をあげよう、見届けよう、“ここに生きているんだ”と謳う姿は、湯浅政明監督らしい肯定的な非常に強いポジティブなエネルギーを感じました。
生きている・生きたことを肯定する姿勢にもうそれだけで個人的には「好きだー」ってなるのですよ。

その上で、世知辛さも描いているのがまた憎い。

最後まで自分の道を間違ってなかったと曲げなかった友魚。
本心を押さえ込んで生き続けた犬王。
普通の映画だったら、共に抗っていく展開になるのだろうけど、犬王がそうはしなかったという選択肢がこれまた、一筋縄ではいかない人生の難しさ・器用でないと生き残っていけない様を描いているようでより沁みてきます。

だからこそクライマックスで現代で二人が再会する様は余計にグッときます。最後に至るまでこれでもかと“現代に再び蘇る”ことを描いてくる。人間の命一つは刹那的。それでもその一つ一つの輝きは担保されているかのように描いてくれる結末が優しいです。

小さく短な人生すらも肯定してくれるポジティブなエネルギーにグッとくる!

絶対応援上映向き!盛り上がりのライブパート

そんなこの映画のポジティブなメッセージに説得力を持たせてくれるのが、抜群のライブパフォーマンスですよ!もうね、最高。

(C)2021 “INU-OH” Film Partners

手拍子をさせようとしたり、歌わせたりという「魅せる」だけでない「参加させる」形式のパフォーマンスがまたズルくて、自身もあの群衆の一人に混ざりたいとウズウズさせられました。

時制的に無理なことはわかっているのですが、絶対に応援上映をやったら盛り上がるタイプの映画なだけに、声を出せない形式でしかできないのが、本当に残念です。

そもそも「室町時代にも現代のライブパフォーマンスのような演出は発想できていたのでは?」という発想が面白いし、しっかりどう演出しているのかまで想像して映像化してるところも芸が細かい。大胆なのにそういうところは繊細なのもまたプロのお仕事ですよ。

(C)2021 “INU-OH” Film Partners

この対比は、ライブシーン以外にも言えて、派手なライブシーンと対照的に友魚視点で、目が見えない人間の感覚を静かなアニメーションで繊細に描いてます。これまた、対比が効いていて、作品により深みを与えてくれています。

演出・発想・描写すべてが大胆かつ繊細で見事!

惜しいほどに知的

じゃあこの映画が欠点のないパーフェクト作品かといえば、正直そうとも言えないというか、そもそも人には結構薦めにくいと思うのが正直なところ

十分にポップな作品ではあるものの、犬王の演舞は「平家物語」の逸話がベースにあって、その逸話を知らないと何を演じているのかは、ぼんやりとしてしまうという取っつきづらさがあるのは確かです。

(C)2021 “INU-OH” Film Partners

現に私も、TVアニメ「平家物語」を結構最近観ていたおかげで安徳天皇の入水シーンはアニメで観たあのシーンだ!、とわかった一方で、腕塚の演舞や竜宮城の演舞といった内容は、

「これは何をパフォーマンスしているんだろう」

と頭に疑問符が立っている状態で観ていたのは確かです。
事前にその逸話が、作中で描かれていたら見え方も違ったのだろうけど……とも思う一方で、そこまでやるのは野暮とも思うのが難しいところです。

演舞の内容は、意外と予習していないと引っかかりは少なからずある。

まとめ

●スポットの当たらない人生をも肯定してくれるポジティブエネルギー!
●演出・発想・描写すべてが大胆かつ繊細で見事!
●ただ「平家物語」知識があったほうが楽しめるよね?感は否めない

そんな感じですごーく良かったです。
「NO予習でも大丈夫?」と聞かれたら、素直にウンとは言いにくい映画ではあるんだけど、まあ、引っかかりがあったら、あとで勉強してもう一周すれば良いよ、この際。

結局はライブ映画なので、映画中は頭空っぽにしてでっかい鯨ソング歌おう。深い話は帰りの電車で反芻しよう。


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2020年の7月に書いてた2年近く早い予習記事
アヌシーで湯浅監督がどんなことを語っていたのかなど(↓)

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