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「関西女子のよちよち山登り 4.飯盛山」(5)

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  調理用具を片付け、そろそろ下山しようかと立ち上がる。

「あ」

 そういえばいろいろなことに気を取られて、まだ飯盛山からの景色を眺めていない。
 せっかくだから展望台の二階に移動する。

「なんか、けむってる?」

 ミニチュアの街の遙か向こう側に、にょきにょきと高層ビルが建っている様子がうっすら見える。しかし白く霞んでいてはっきりと見えなかった。気がつけば、朝は晴れ渡っていた空にぽつぽつ雲が浮かんでいる。

「今日は明石海峡大橋、見えへんねえ」

 登和子より先に展望台にいた初老の男性に話しかけられた。

「明石海峡大橋って、あの兵庫と淡路島をつないでるやつですか?見えるんですか?」

「見える見える。今日は向こうのほう全然見えへんけどね」

 男性は前のほうを指さしながら続ける。

「ほんまやったら、ビルの向こうに六甲山がだーっと横に広がってんねんな。で、淡路島のほうにも山があって、その山と六甲山の切れ目のところに橋が架かってる、そんな感じやな」

「へええ」

 登和子は感嘆して男性が指さす方向を見た。今はもやのせいで白い空間があるばかりだが、いつか橋が見られたらいいな、と思う。

 男性にお礼を言い、一階に下りた。下山に取りかかる前に一度水分補給をしようと、ペットボトルを取り出す。

「あ!」

 登和子はそのまましばらく固まった。

 麦茶の残量があと高さ五cmほどしかない。

 慌ててスポーツドリンクのペットボトルを確認すると、こちらはもっと少なかった。

 ここまで暑くなると思っていなかったから、これまでの登山同様、五〇〇mlの麦茶と二五〇mlのスポーツドリンクしか持ってきていなかった。
 時刻は十一時を回ったところだ。これからどんどん暑さが増すだろう。

 飲み物を、節約するしかない。

 登和子は喉を湿らせる程度に麦茶を飲んでから、覚悟を決めて元来た道を戻っていった。

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