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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(5)

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「あー、あせったあ……」

 保冷剤で冷やしつつ、立ち上がって調理を再開する。いまさらだが、このほうが断然作業がしやすい。分かっていたはずなのに、ついずぼらをしてしまった。

 そして恐らく、ずぼらをしたからこんなアクシデントが起きたのだろう。

 ガス缶とバーナー、そして深型クッカーを合わせると、高さは三〇cmほどになる。それらを載せているテーブルはイスより高いため、深型クッカーの頭の位置と座ったときの登和子の目線はほぼ同じ高さにあった。

 これでは作業をする手がいつクッカーに当たってもおかしくない状況だ。手が当たらなくても、クッカーを箸でかき混ぜているときに箸先が引っかかって、もっと派手にお湯がこぼれていたかもしれない。

 とりあえず大事に至らなくて良かったと自分を励まし、心が乱れないように努める。

 しかし、なかなかうまくいかない。イノシシと遭遇しかけたり、やけどしかけたりと、こう立て続けに事が起こるとどうしてもめげそうになる。

 豆乳ラーメンは無事に完成し、特にコクのあるスープがとてもおいしかった。左手はすぐに冷やしたからかもう痛みはほとんどない。

 それでもなんとなく、登和子の心は晴れないままだった。



 調理用具を片付け、登和子はのろりと立ち上がる。広場の南端のほうにちらっと目を向けたが、そちらには寄らずにロープウェイ乗り場を目指す。

 乗り場の手前に「星の駅」と駅名を掲げた、柱廊状のエントランスがある。
 そこを入ってすぐ右手に、小さな看板を見つけた。

「あ、おいしそう……」

 看板には、焼きそばやハンバーグ、カレーにケーキといった食べ物の写真が並んでいた。料理名の横に料金も書かれている。どうやらこの建物の二階にカフェがあるらしい。

 看板の横には外階段の入口があり、そこから上に行けそうだ。

 登るものは登ったし、見るものは見たし、食べるものは食べた。あとはロープウェイで下山するだけだったので時間の余裕はたっぷりある。

 登和子は二階に行ってみることにした。

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