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「関西女子のよちよち山登り 4.飯盛山」(1)

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「あ……っづい」

 こめかみから頬に汗が流れ落ちる。背中がどんどん汗で湿っていく。
 登山口までの上り坂をゆるゆると登りながら、登和子は『このまま坂を駆け下りて帰ってしまいたい』という抗いがたい誘惑と闘っていた。

              ***

 今回の登山の目的は山ごはん作り。

 『何を作るか』よりも『どこで作るか』が重要だと、先月、登和子はガイドブックを前に考えていた。
 食材や水が増える分、ザックはどうしても重くなってしまう。そのため、自宅から登山口までが遠い山や、登山口から頂上までの距離が長い山は今回候補からはずしたい。

 ガイドブックでは条件に合う山が見つからず、ネットで探し始める。『大阪 ハイキング 初心者』で検索すると、近くに良さそうな山を見つけた。

 大阪府四條畷市と大東市にまたがる、飯盛山だ。

 自宅の最寄り駅から、登山口の最寄り駅である四條畷駅までは電車一本で行ける。さらに登山口から頂上までの距離も短く、一時間足らずで登れるようだ。

 行き先は決まった。六月はすでに大和葛城山で月イチ登山の目標を達成していたため、七月に登ることにした。

 七月第二週目の土曜日は、ちぎれ雲すらない青空に恵まれた。
 強い日差しが容赦なく降り注ぐ中、登和子はゆっくり四條畷神社の参道を登っている。

 飯盛山の登山口は神社の奥にある。駅から約一kmの距離だが、そのうち半分は参道になっており、ずっと坂が続く。影になる場所があまりなく、全身をじりじりと太陽に焼かれながら歩かなければならない。

 参道の終点にある階段を登りきるころには、登和子はすっかり汗だくになっていた。

「ここまで暑いとは予想外やった……」

 まだ梅雨も明けていない時期で、予想最高気温は二七度だった。夏日だがまだ蒸し蒸ししておらず、時折爽やかな風が吹く――だから油断した。正直、夏場の登山という意識をあまり持たずにここまで来てしまった。

「甘かったかなあ」

 ため息まじりにつぶやく。ザックを下ろし、スポーツドリンクを飲んだ。とにかく熱中症にならないように気をつけなければいけない。

 先が思いやられる……。

 四條畷神社で無事を祈願してから、登和子は登山口に向かった。

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