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「関西女子のよちよち山登り 4.飯盛山」(3)

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 周りに目を向けると、像の近くに『飯盛城址』と書かれた石碑を見つけた。ここに山城があったらしい。

「ということはここが山頂ってことでいいんかな」

 登和子は楠木正行の像にお辞儀をしてから展望台のほうに戻った。

 いそいそと一階部分の空いているベンチに座る。

 いよいよ今日の目的である、山ごはん作りの始まりだ。

 ザックを開け、ガス缶が入っている深型クッカー、バーナー、お箸、市販のパスタソース、ジッパー付き保存袋を取り出す。
 ジッパー付き保存袋には、半分に折ったパスタの麺と、麺が漬かるくらいの水が入っている。

「うーわ、パスタの色、真っ白や!大丈夫なんかな」

 本来黄色みがかっているはずの麺は水の中で白くなり、硬さを失ってぐにゃりとしている。

 通常パスタを作るときは、塩を入れたたっぷりのお湯で麺を数分間茹で、残ったお湯はシンクに流す。

 山ではその方法は使えない。まず燃料が限られているため、長い時間麺を茹でることは難しい。そして茹で汁を地面に捨てるのは、環境に悪影響を与える可能性があるため御法度だ。
 すべてネットで得た付け焼き刃の知識だが、環境破壊をする前に知ることができて本当に良かった。

 では山でパスタを作るときはどうすればいいのか。

 登和子は今回『水漬けパスタ』という方法を試してみることにした。

 ジッパー付き保存袋に水と麺を一緒に入れ、一時間ほど置く。熱したフライパンに水ごと麺を入れ、水分が飛ぶまで炒めれば通常のパスタができあがるというものだ。

 登和子は今朝自宅で水漬けパスタの用意をし、ザックに入れて持ち運んだ。自宅から山頂まで、麺の放置時間は約二時間半。

 そして現状、いかにもまずそうな色をした麺がジッパー付き保存袋の中に横たわっている。

「とりあえず……炒めてみな始まらん」

 登和子は気を取り直し、ガス缶とバーナーの接続に取りかかった。

 一度自宅で使い方を練習したのだが、いざとなるとなかなかうまくいかない。ガス缶の頭にある接続部にバーナーのおしりをはめ、くるくる回して取り付けるだけなのに、左に回しても右に回してもなぜか手応えがない。背中に汗をかく。

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