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「関西女子のよちよち山登り 6.摩耶山」(2)

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 今回の登山口の最寄り駅は阪急・王子公園駅。駅を出て坂を上り続け、高校の手前の道を左折してさらに坂を上り続けた先から、ようやく登山道が始まる。

 神戸は坂が多いと聞いたことがあるが、正直、体感するまで少し大げさではないかと思っていた。愚かだった。多いのは坂などという甘いものではなく、急角度の“急坂”だ。この辺りに住んでいる人は足腰が相当強いのではないだろうか。

 麦茶を一口飲み、息を整えてから再び歩き出す。

 登山道に入ると、まだまだ厳しい残暑の陽光が木々によって隠され、少し暑さが和らいだ。

 ほっと人心地着いたのも束の間、ほどなく目の前にダムのようなコンクリートの建造物が現れ、道が塞がれてしまっていた。

 登和子はほんの少しうろたえたが、「これはあれや、いつものパターンや」とつぶやきながら灰色の壁に近づいていく。すると、左端に同じ色の階段を見つけた。上ると向こう側にも階段があり、無事にダム(仮)を越えられた。

 登和子が登山をし始めて気づいたことの一つがこれだ。遠目では道が途切れているように見えても、歩いて行けばちゃんと続いている。最初のころはいちいち心の中で「道がない!」と焦っていたが、最近はこのパターンに慣れてきた。
 ゆるゆる歩いて行くと、今度は道が二手に分かれている。直進と右折、どちらも登りの道だ。

「どっちやろ」

 分岐点に立ち止まってうーんとうなる。まあ違ったら戻ればいいかと、登和子はとりあえず右折した。

 登っていくと、突然視界が拓けた。

「おお!すごい」

 そこはあまり広くはないが展望スポットになっていて、神戸の街と、その前に広がる海が一望できた。太陽の光を受けて、海面が銀色に輝いている。

 不思議な感覚だ。山に登っているのに海をこんなにも近くに感じる。

 まだ登山口から二〇分も経っていない。さらに登っていけば、もっと高い場所から、広く神戸の街を眺められるのではないか。

 登和子は楽しくなって心の中でスキップした。

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