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高知の八彩帖(ヤイロチョウ)9・「おすそ分け」

 かつてとある会社のサイトに連載していたショートエッセイです。高知のあれこれを書いています。

 今回のテーマは「おすそ分け」。地方ならではのあるあるを綴ってみました。

  北に四国山地、南に太平洋を抱える高知県。豊かな自然に恵まれているのは当然のこと。そこでとれる海の幸山の幸は「食べ物が美味しかった県」ランキングの上位に入る実力がある。親戚知人に農業を営む人も多いだろう。休みになれば、海や川では大勢の釣り人が糸を垂れている。

 必然的におすそ分けが回ってくるのは、田舎あるある。「おるかね〜」と声をかけた時点でもう玄関に上がり込み(知人談)、バケツいっぱいの魚やらコンテナ満杯のミカンやらを勝手に置いて行く。タケノコ・柿などは「また来たで…」とウンザリされるほどだ(いや、ありがたいんですけどね)。

 おすそ分けにもバブル(?)があったのか、昔は伊勢エビや松茸なんかを頂いたことも。記念写真を撮っているくらいだから、貧しい我が家にとってはよほど珍しかったのだろう(泣ける)。

 ところで、大叔父夫婦がまだ元気だった頃。子どもの私に「もちキビ」を作って持ってきてくれた。それがことのほか美味しく、それを大叔父に伝えたところ、以降私のためだけに作ってくれることになった。

 艶めく黄色の粒を噛みしめるたびに、じんわりと出てくるほのかな甘みや素朴な味わいは、大叔父夫婦の愛情にも感じられ、一粒一粒大切に頂いたものだ。今でも時々良心市でもちキビを買うことがある。食べるたびに大叔父と大叔母の日に焼けた、懐かしい笑顔を思い出す。

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