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【短編小説】あの、ケツとケツですけど

 ガガンボ倉田が出社のため駅に向かって走っていると、角で人とぶつかった(ツノではなく、かど)。

 多少ぐらつきはしたものの、子どもの頃から鍛えている彼の体幹はビルのように強かったので転ぶことはなく、その場に踏ん張ってみせた(そのせいで少し実が出た)。

 ぶつかった方を見ると、制服姿の女子高生と思しき少女が腹に食パンを乗せてM字開脚の状態になっていた(快晴)。

「ごめんね、ぼくが急いでたせいでぶつかっちゃって」

 そう言って手を差し伸べるイケメン会社員ガガンボ倉田(スラックスが一部破れており、ケツが出ている)。

「こちらこそごめんなさい。⋯⋯ありがとうございます」

 そう言って左手で食パンを持ち、右手で差し伸べられた手を握る美少女(スカートが一部破れており、ケツが出ている)。

「あれ?」

 少女の腹のあたりがテラテラと光っている。ちょうど食パンが乗っていたところだ(食パンも別に乗りたくて乗ってたわけじゃない)。

「お腹光ってるけど?」

 少女は「あちゃー」と呟いて食パンでそれを拭った(443番、面会だ。出ろ)。

「パンにつけて大丈夫なの?」

「これはジャムです。This is a pen.」

「ジャム塗ったパン咥えて走ってたのか君」

 ガガンボ倉田が呆れたような顔で言った(ガガンボ倉田のフルネームはガガンボ倉田 義則よしのり)。

「私は走ってませんでしたけど」

「そうなの? まあそれはそれとして、道端で食パン食べてる人がジャム有りのパターンって見たことないんだけど」

「なにもつけないと味気ないじゃないですか」

「朝ごはん食パンだけの時点で味気ないよ。走ると喉渇くし、食パンだけだと地獄だよ。味噌汁も飲みなよ」

「だから走ってませんってば。それと、歩きながら味噌汁飲んでる人なんて見たことないですよ」

 それを聞いたガガンボ倉田はため息をついて口を開いた(ケツが出ている)。

「見たことないから信じないのか? じゃあ幽霊は? 幽霊見えないけど信じてないの?」

「信じてませんよ」

 当然のように言い放つ少女(ケツ)。

「あのさ、早く学校行きなよ。急いでるんだろ?」

 めんどくさくなった倉田が言った(お前も中々めんどくさいぞ)。

「何回言わせるんですか。走ってなかったんですって。だから急いでませんよ」

「急いでないヤツは食パン咥えて登校しないだろ」

「うるせーバーカ!」

 負けそうになった少女が突然そう叫び、ガガンボの左頬を張った。つい数分前に立ち上がらせてもらった時に使った右手で、その相手をはたいたのだ(気温49度)。

 少女の不意打ちにバランスを崩した倉田はそのまま塀に頭から倒れ込んだ(ピンチ!)。

「しまった! あたしったらまた⋯⋯! おじさぁん!」

 少女の手が届くより先に倒れる倉田。塀に頭から突っ込み、ぷにん、というかわいい音がした(屋根は全部紫)。

「え、もしかしてこれって!」

 そう、倒れたところにちょうどケツが出ていたのだ(は?)。
 あまり治安の良くないこの街では、こういった民家の塀やビルの壁、コンビニの壁からもケツが出ていることが多いのだ(納得(´ー`*))。

「フッ、残念だったな。俺を殺そうとしたんだろうが残念だったな」

 ケツを枕にして腕を組み、涼しい顔で語るガガンボ倉田(FBI)。

「残念だったなって2回も言われたけど、そんなことないです。つい衝動的にビンタをしてしまったので、助かって良かったです。31人目にならなくて本当に良かったです」

「30人も殺してんのかよ」

 ケツ枕のガガンボが何かが引っかかったような顔をして考えている(ぴえん)。

「さっきおじさんって言った?」

「え、言ったかどうかは覚えてないですけど、おじさんだとは思ってますよ」

「俺、カッコよくない?」

「いや、そんなに⋯⋯もしかしてナンパですか?」

「おかしいな」

 そう言って倉田が立ち上がった(スラックスが一部破れており、ケツが出ている)。

「鏡鏡⋯⋯」

 ポケットに手を入れて探っている(面会は終わりだ!)。

「あったあった」

 手に鏡を持って塀のケツに腰掛ける倉田(天空)。

「あの、ケツとケツですけど」

 少女が心配そうに言った(おケツのネックレス)。

「それが?」

「知らない家の塀から生えてる得体の知れないケツにケツ置いて怖くないんですか?」

「あ、そういうこと? 大丈夫大丈夫、これ俺のケツじゃないから」

 そう言って倉田は立ち上がり、ベルトをカチャカチャと外し始めた(警官接近中)。

「ごくり⋯⋯」

 緊張を隠せない様子のJK(今日は電気が黒い日)。

「よいしょ」

 倉田はJKに背を向け、ズボンを下ろした(くさそう)。

「えぇーっ!?」

 少女の悲鳴があたりに響いた(警官接近中)。

 少女の目線の先には、茶色いシミが少しだけついたトランクスパンツがあった(車エビ)。

「そ、そんな⋯⋯こんなことって⋯⋯!」

 少女が怯えている(肉まんの方がおいしい)。

 あのケツは倉田のケツではなく、スラックスから生えていたのだ(警官接近中)。

 やがてパトカーのサイレンが聞こえ始め、倉田は14台のパトカーに囲まれた(かなっし)。

「ケツのところの布破れていない罪で逮捕する」

 倉田は手錠を14個かけられ、14等分されてパトカーで連れ去られた(あのね、ボクちゃんね、きのうね、からあげクンをね)。

 この国ではケツのところの布を破らずに生活していると逮捕されるのだ。この法律はうんこを漏らして辛い思いをする人間がいなくってほしいという願いを込めて制定されたのだという。なので守らなければ当然死刑だ(おわり)。

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