見出し画像

冬将軍の、おな~り~

今夜は寒くなるらしい。そんな予報がされていた夕暮れ時。

鴨川の柳が激しく揺れていた。

いつもは穏やかに枝垂れている柳が、夕闇の中で時に振りあがるほどに揺れている。

あの憎らしく恋しい浮気男の元へ行き、怨念を晴らさんと長い黒髪を振り乱す女のように。

川を通る風が時折り唸りをあげる。否、女の声か。


空を見上げると、綿を小さくちぎったような雲たちが急ぎ東へ向かっている。

小隊の先頭にはひとまわり大きい隊長と思しき雲。


「冬将軍の、おな~り~」


露払いをするかのように、勇ましく歩を進める。
従者たちがあとに続く。


寒風が吹きすさぶ。


さぁ、冬将軍のお出ましだ。
皆の者、備えはできているか。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?