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私が独裁者になっても

NETFLIXで配信が始まった「金魚妻」の感想をnoteに書けというリクエストを貰ったので、期待に応えるべく、今日はプーチンとロシアについて語ろうと思う。いまさら篠原涼子(48)の濡れ場って言われてもね…

まず最初に断っておきたいが、私はロシアの専門家ではない。ロシアとのつながりといえば、かつて流暢な日本語を話すロシア大使館の兄ちゃんに誘われて2人で飲みに行ったことがあるが、俺がタダ飯だしと調子に乗ってガバガバ酒を飲み、馬鹿話ばっかりしたら2回目からは誘われなくなった程度である。ロシアの諜報活動に勝った男として覚えておいてほしい。

しかし、限界国家愛好家として、それなりに語れることはある。特にロシアに関しては、最近読んだこの本がスマッシュヒットだった。著者の古川英治氏は新聞社の特派員として2度のモスクワ駐在を経験し、プーチン政権下で行われた毒殺などの弾圧やフェイクニュースやサイバー攻撃による西側諸国への攻撃を取材している。欧米や現地メディアの翻訳を垂れ流すことを特派員の仕事だと勘違いしている記者が多い中、本書に書かれているルポの数々は出色である。

古川氏はプーチン政権下で行われる数々の政策を「ダークパワー」と分析する。フェイクニュースの乱造も有力議員の買収も、軍事・経済力による「ハードパワー」や文化や価値観に基づく「ソフトパワー」で欧米に劣るロシアの苦肉の策だという。本の面白さが削がれるので詳細は省略するが、国際情勢に興味のある人は是非読んでほしい。

端から見ると阿呆らしいことこの上ないが、欧米の民は見事なまでにフェイクニュースに踊らされ、米国では一時的とはいえトランプ政権が誕生し、現在もウクライナ情勢でロシアの動向が世界を動かしている。プーチンのダークパワーは威力を発揮しており、世界はプーチンの手のひらの上で踊らされ、転がっている。しかも悪い方向に。

間違いなく歴史の教科書に名を刻む実績の一方で、プーチン亡き後、彼はどのような評価をされるだろうか。私の見立てでは、「豊富な天然資源を持ちながら、身の丈を超えて国際情勢にのめり込むあまり国を衰退に導いた愚かな独裁者」といった所だ。特に、第2期は散々な内容だ。

世界銀行によると、2012年にプーチンが2度目の大統領に就任して以来、2020年までにロシアのドル建てのGDPは3割以上減少している。デフレと少子高齢化でお馴染みの日本ですら、同期間の減少率は2割だ。新興国で資源国であり、短期的な民意を無視して政策を実行できる稀有なポジションにいながら、欧米諸国の足を引っ張ることに執着し、戦争ごっこと時代遅れの領土拡張の野心で経済制裁を招き、自ら海外直接投資を遠ざけることばかりしていた結果である。

ちなみにBRICS(死語)のお友達である中国の同期間のGDPは7割増えている。強権国家同士、よく比較される中国とロシアだが、経済運営という点では雲泥の差だ。

もっとも、プーチンが最初から愚かだった訳ではない。資源バブルという追い風があったとはいえ、第一期の2000年から2008年までの間でGDPは6.4倍に増えた。ペレストロイカの失敗やソ連崩壊といった苦難の時代を知っているロシア国民にとって、プーチンは国の経済を成長させプライドを取戻すことに成功した立役者であり、現在に続く根強い支持はここに起因している。

しかし、ある段階からプーチンは国の経済よりも、自らの権力維持を優先するようになる。野党やメディアを弾圧し、時には毒殺をしかけ、フェイクニュースで民主主義国家を揺さぶり続けた。米国と敵対する国があればシリアだろうがベネズエラだろうがなりふり構わず支援し、挑発を続けた。これらの行動は国際ニュースで大きく取り上げられ、プーチンという指導者とロシアという国を実像より大きく見せることには成功した、一方で西側諸国からの投資は途絶え、通貨ルーブルは下落を続ける。

少なくともプーチンの2期目以降で国民生活は豊かになっていない。これは歴然たる事実だ。一人あたりGDPがマレーシア以下の国が、かつての栄光にすがって銃を振り回して国民に窮乏を強いながら世界に迷惑をかけているというのが実情だ。

プーチンが何を考えているかは分からないし、専門家ですら何が起こるのか予想できない以上、第三者が今後の展開をあれこれ推測した所で無駄なのだろう。「プーチンはウクライナ情勢を使って資源価格を操作して高値でガスを売って儲けている」という分かりやすいストーリーがTwitterでは人気だが、潜在的敵国にエネルギー依存していることの危険性を欧州諸国に自ら教えあげることが長期的に考えてロシアの国益をどれだけ損ねるか考えた場合、とても合理的だとは言えないだろう。ただ、すでにプーチンの政策は合理的かどうかで図れる段階はとうに越えているのも事実ではあるが。

プーチンという独裁者がいつまで権力を握り続けるのかは分からないが、これからも国際ニュースを賑わせ、我々の生活にも少なからず影響を与え続けるのだろう。迷惑な話ではあるが。

※本稿で使ったGDOはすべてドル建ての名目GDPなので市民生活の肌感覚と離れている部分はあるが、大枠としての説明であり、国際比較で簡略化するためとしてご容赦願いたい


追伸
最近、ロシアのニュースを読み解く上で軍事的な知識が欠けているなということに気がついたので、今更ながらTwitterでもお馴染みのイズムィコ先生の本を読みはじめた。世の中は学ぶことだらけで、残された時間は長くはない。難儀な時代を生きているものだ。


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