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〔ショートショート〕常春の地

もう嫌だ。
会社の業績悪化で僕は切られ、次の派遣先も見付からない。全財産は財布の二万円。
外から賑やかな音楽が聞こえる。そう言えば今日は日曜、広場でのみの市がある。財布を手に僕はアパートを出た。

賑やかな会場で、手作りの店やキッチンカーを覗く。ふと、ある商品名に目が留まった。
「春ギター?」
古そうなギターだが、値段は「全財産」。丁度いい、もうこれを買って終わりにしよう。
「春ギターください」
財布を取り出し小銭まで全部渡す。店主は少し驚きつつ、ギターを僕に渡すと言った。
「目を閉じて1曲弾けば常春の地に行けるよ。戻れないけどね」

部屋に戻り、どうにでもなれと目を閉じ、短い曲を弾く。そして目を開けると、なんと僕は古民家の縁側にいた。目の前には一面の菜の花畑と蝶。常春の地だ!

やがて…毎日変わらない景色の中、少しずつ菜の花も蝶も成長していると気付いた。今では家より高い巨大な菜の花の上を、バサバサと蝶が飛ぶ。

僕にはもう、逃げる所などない。

(完・413字)


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