[創作ミニストーリー]健康って他人が決めることじゃあない

「がんばれ~~!!」
「あと少し!泣いても笑っても、あと2キロだよ!!」

沿道から、叫ぶように檄を飛ばしている声がいくつも重なる。
車道には今日は車は通っていない。
代わりにいるのは、途切れることなく続くランナーたち。

彼らはこの地点に来るまでに40キロを走ってきている。途方もない距離だ。学生時代に陸上をかじった自分だが、今日は友人の応援に来ているだけ。マラソンのような長距離は走ったことがない。それでも沿道を走るランナーたちを見てると、なんだかじっとしていられないような気持になるのはアスリートの性なのだろうか。

威勢よく走り抜けるランナーに交じって、腰の曲がりかけた年配の男性が目の前を通り過ぎていった。

走るには、大殿筋やハムストリングスなど大きな筋肉をしっかり働かせて、上半身は力を抜いて走りたい。首が前に出て腹が折れるような姿勢は、僧帽筋に負担がかかり肩も凝ってしまうだろう・・・・

そんなことを考えてしまった自分に気が付き苦笑する。このランナーは自分が経験したことのない距離に挑戦し、スタートからずっと走り続けて今この位置にいるではないか。おそらく自分よりもずっと速く走れる、尊敬に値する年長者だ。彼が走り切った後に得られる達成感は、自分が仕事で得ているそれよりもずっと大きなものかもしれない。まして自宅と会社の往復で一日が、いや一年が終わっている自分よりもずっと健康だろう。

では健康とはなんだ?
やりたいことがあって、問題なくそれができていたら、それは健康なんじゃないか。「姿勢」とか「食事」とかそんな一部分だけを切り取って健康だの不健康だのって他人が判断することは、意味がないのではないか。少なくとも、今目の前を走り抜けていった年長者(実際は歩くような速度だったが)はランニングフォームは悪いが今の自分よりずっと、健康だ。
やりたいことができて人生に満足しているなら、何も困らない。もしその「やりたいこと」に支障が出るような自覚症状がでたら、その不都合を直していけばいい。その方が、いっしょくたに健康不健康を指摘してマウントを取るよりもずっと前向きで適切な対応ができる気がした。

「あと少し!頑張ってください!!」

上がらない脚を無理やり上げて走っているであろうランナーたちに負けないように、柄にもなく声を張り上げた。見ず知らずの他人のために声を出すなんていつ以来だろう。もうすぐ通過する友人は、驚いてコケるかもしれない。そしたら笑ってやろう。そして、ゴールしたらマラソンの楽しさを聞かせてもらおう。

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