【創作ミニストーリー】降って湧いた休暇

その日、車を降りなかった理由は特になかった。走っている大通りの街路樹の色が複雑で、赤と黄色の間のくすんだ色が葉の一枚一枚で異なる配合で発色していて、それが無秩序に木というまとまりの中に存在していたのが、理由といえば理由かもしれない。

このくすんだ紅葉に、なにか違和感を感じた。

いつも大通りから左折して入る会社の前を通り過ぎ、その先のコンビニで車を停めた。コーヒーとドーナツを1つ購入して車に戻る。そしてスマートフォンを取り出し、体調が悪くて休むと伝えて電話を切った。

進行方向の正面には、街路樹と同じく複雑に色が重なり合うくすんだ山が見える。

紅葉はモミジの赤、イチョウの黄色などといった絵具の単色塗りで表せるものではのだ。そんなことに人生も折り返しという年齢で今更気づいたことが、自分の行動を変えたのかもしれない。

紅葉のせい、というのも妖に惑わされたようで悪くない。
延々続く街路樹に挟まれながら、通勤途中であろう車に挟まれながら、美しくくすんだ山へ向かってみるか。

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