【小説】連綿と続け No.58
由美子)ジョギングで顔は合わせとったんやけどね
侑芽)ジョギングで?
由美子)そいがそいが。毎朝、小矢部川沿いを走っとったんやけど、必ず会うから「おはようございます」て挨拶だけしとってね
航)へぇ。ジョギングしとることは知っとったけど……
山崎)なんや照れてまうのう!
いつの間にか他の者達も
耳をすませて話を聞いている。
由美子)そんな事が2年くらい続いたのかなぁ。ある日、私がお勤めしとった福光の歯科医院に洋平さんが偶然来たのちゃ!
福光とは
JR城端線が通っている南砺市西部にある地区の1つで、
城端と並ぶ市街地である。
一同)え〜!!
山崎)ほんまに偶然やちゃ!俺もその頃、福光に住んどって。歯が痛とうなって初めてそこ行ったら、受付にこの人がおるさかい驚いてのう〜
航)ほんで、どうやって口説いたが?
由美子)そう思うよね?私も「あれ?この人いつも会う人や」て思うたんやけど、洋平さん何も言わんさかい、違うたら嫌やし、私も何も言わんかったの
山崎)そもそも毎朝この人と会うんが楽しみでジョギングしてたとこがあったさかい、そんな人とまさか偶然会えるなんて思いもせんさかい、びっくりしてのう!
一同)ふぁ〜!早く続き教えて〜
山崎)まぁまぁ!急かすなって!ほんで治療で何度も通うてな、その間も毎朝会うとるんやけど、いつも通り挨拶だけしてたのちゃ
由美子)そいがそいが!この人、いっこうに話しかけてこんさかい、何でやろうて不思議やったの。でもある日ね……
一同)うんうん
全員、前のめりになって聞き入る。
由美子)そこの院長がもうお年でね、歯科医院を閉めることになったが
航は山崎がグラスを握りしめて、
当時を思い出しながら俯く姿を見ていた。
由美子)そんで最後の診察日になってね。この人、何したと思う?
山崎は「もういいって!」と言いながら
一気にグラスをあけ顔を真っ赤にしている。
侑芽)由美子さん、続けてください!
航)まぁ、ここまで聞いたらのう……
一同)そいがそいが〜!続けて〜
由美子)アハハ、うん。それで最後の最後にね、診察券を渡してきて、黙ったまま頭下げて帰って行ったんちゃ!
全員がポカンとしている中、
礼子が腕を組みながら目を細める。
礼子)はは〜ん。ウチ、わかってしもたわ……
太郎と富樫は「どういうこと!?」とキョロキョロしている。
礼子)その診察券と一緒に連絡先を渡した。そうやろ!
サスペンスドラマで犯人を追い込む刑事風に迫った。
すると山崎は観念し
山崎)正解!参りました!なんでわかったんや〜
全員「え〜!!」と驚く中、
恋愛経験が乏しい侑芽は顔を真っ赤にし
侑芽)そ、それで!?由美子さんは……連絡したんですか?
由美子)結果的にはそうなるね!
山崎)だってな。もう二度と会えんかもしれん思うて
航)けど、ジョギングで会うてたんやろ?
山崎)そらそうやけど、この人が高岡の実家に戻るて聞いて、こらもう二度と会えんて思うたが!
目尻にシワを寄せて笑う山崎は、
もう包み隠す事なく開き直っている。
由美子)そうなが。他のクリニック行くことも考えたんやけどね。親が帰ってこいてうるそうて。けど気になって洋平さんに電話したら、初めて会う事になって……
山崎)いつもジョギングしとる公園で待ち合わせしてのう。何年も前からここで会うてたこと話したり、仕事の話したりして、時々会うようになってな
由美子)そのうちに、もうすぐ実家に帰るて言うて、今までありがとて伝えたら、この人が急に「帰らんでくれ!」て言い出してね(笑)
一同)ふぁ〜!!
山崎)そらそうや。やっぱりな、この人やて思うたさかい。なりふり構うておられんかったんやちゃ。皆んなそうやろ?
富樫)フゥ〜〜!!よっ!男前!!
隆史)カッコええなぁ〜
侑芽)それで、由美子さんはなんて?
由美子)そんなこと言われてもて思うてね。どうしたらええ?て聞いたら、「俺とおってくれ!」て言うさかい、困ってしもてねぇ(笑)
凛子)そら急にそんなこと言われてもなぁ
高岡)で、その後どうしたんです?
由美子)仕事探さんとこっちにはおられんて言うたの。そしたら「独立するさかい、手伝うて欲しい」て言われて。すぐ答えられんかったさかい、ちょっこし時間もろてね。自分がどうしたいんか考えとった
侑芽は自分の事のように聞き入っている。
航はそんな侑芽を見つめている。
山崎)もうフラれるかと思うたわ!
由美子)アハハ!けど、この人について行ってみようかなて思うたさかい、お受けしたんちゃ
一同)ふぁ〜!!
全員悶絶している。
航は腕を組み
天井を見上げながら黙って頷いていた。
山崎はそんな航をバシッと叩き、豪快に笑った
山崎)アハハハ!
お開きになり、
ほろ酔いの侑芽を連れて歩き始めた航。
フラフラと千鳥足の侑芽を支えながら歩いていると、
侑芽が航の腕にしがみつく。
航)飲み過ぎやちゃ
侑芽)はい……ちょっと飲み過ぎましたね
航は侑芽の前にしゃがみ込み、
背中に乗るよう誘導する。
「恥ずかしい」とか「子供じゃありません」
などと言いながらも
背中に乗った侑芽を背負い、
静かな八日町通りを歩き出した。
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