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【小説】連綿と続け No.57

純喫茶『あいの風』を貸し切り、
マルシェの打ち上げをする事になった。

富樫と高岡も乗せて
航の車であいの風に向かう。

高岡と富樫は店の前で先に降り、
侑芽は航と共に一度航の自宅に向かう。

車を置くだけと思っていた侑芽は、
そのまま店に向かおうとするが、
自宅に入っていく航。

侑芽)……?

自宅に入るなり侑芽を抱きしめた航は、
耳元で「お疲れ」と囁き、
すくいあげるように口付けた。

二人とも和装のままだ。
汗ばんだ首筋に唇を寄せると、
侑芽が両手を航の胸に当て離れようとする。

航)ん?

侑芽)汗……かいちゃってるから

赤くなって俯く侑芽。

航)シャワー浴びよ

侑芽)でも皆さん待ってるから

航)遅れるて連絡する

侑芽)でも……

どんどん浴衣を脱がされて、
あっという間に風呂に連れられ、
結局2人でシャワーを浴びた。

侑芽)そうだ、遅れるって連絡しなきゃ!

高岡にLINEを送り、
航が侑芽の髪にドライヤーを当てていると、
高岡から嫌味たっぷりの返信がきた。

『こっちはこっちで盛り上がってるから どうぞごゆっくり!』

侑芽)もう……

航)どうした?

侑芽)高岡さんに誤解されちゃって

航)誤解て何を

侑芽)私と航さんが変なことしてると思われちゃったみたいで

航)変なことて?

航はイタズラな笑みを浮かべ
わざと頬擦りをする。

侑芽)だから、こういう事ですよ!

航)もう行かんでええちゃ

侑芽)ダメです!

2人きりでいたい航をなんとか説得しながら
身支度を整え家を出た。

八日町通りを並んで歩くと、
山からすーっと涼しい風が吹いた。
侑芽の髪がフワッと揺れて航の頬をくすぐる。

侑芽)風が強いですね〜

髪を直してやりながら航が呟く。

航)追い風が吹いとるんや

侑芽)向かい風じゃなくて良かったですね

航)背中を押してくれとるみたいや

侑芽)はい。特に航さんの!

航)俺の?

侑芽)あんまり行きたそうじゃないから

航)そら2人きりの方がええが

ますます足取りが重くなる航を横目に
侑芽は駆け足になった。

侑芽)航さ〜ん!早く〜!

航)走るな!こけるぞ

航は侑芽に引っ張られ
あいの風に入った。
すると既に出来上がっている人達が冷やかしてくる。

山崎)おっ!来た来た!

隆史)着替えて来たがけ〜

凛子)こら!そこは察してあげんと!

高岡)どーせイチャイチャしてたんでしょ?

富樫)もう遅い〜!早うなんか注文しられ!早ようウチらに追いついて!

侑芽)アハハ。追いつけるかな〜

航)追いつかんでええ

ひとまずビールを頼み全員で乾杯をする。
カウンターにいた太郎と礼子も加わった。

富樫)それでは、マルシェの成功に!

一同)カンパ〜イ!!

各々がグラスを合わせて労い合い、
航と侑芽は常にセットのまま
色々な人達と話をした。

そんな中、
山崎洋平の妻・由美子が侑芽に話しかけてくる。

由美子)侑芽ちゃん。本当にお疲れ様!大変やったわねぇ

侑芽)いえいえ。皆さんの方が大変だったと思います。さっきも山崎さんのお店にお手伝いに行きたかったのですが、知識がないから何も出来なくて。申し訳なかったです

由美子)ううん!そんなんええて。航くんも入ってくれたし

由美子が航に目配せすると、
航は照れながら頭を下げる。

山崎)そいがそいが!航が接客できるなんて思わんかったちゃ〜

一同)ワハハハ!

山崎の言葉に全員が笑う。

航)俺やてあんくらい出来る

実は顔を出していた礼子と太郎もそれを見たらしく

礼子)そら可愛い彼女が頑張っとるんやさかい、慣れんことも出来るわちゃ〜

太郎)ワシなんか「あら航くんとちゃう!別人や!」言うて二度見したが!

一同)ワハハハ!そらそうやな〜

皆んなが航をイジって笑っている。
今までならこんな状況になると
すぐ怒って帰っていた航が、
文句を言いながらも侑芽の隣で皆と会話を弾ませている。

そんなガヤガヤした中で、
侑芽は由美子に気になっていた事を聞く。

侑芽)聞いていいかわからないんですけど……

由美子)なあに?なんでも聞いて?

温厚な由美子は、
すらっとしていて目鼻立ちがハッキリした
ショートボブがよく似合う美人だ。
そんな由美子に侑芽は興味津々である。

侑芽)由美子さんと山崎さんはどこで出会ったのかなって

由美子)私達はねぇ、実は何年も名前も知らん仲やったの

侑芽)え!?

航)こら侑芽!そういうんは聞いたらあかん!

侑芽)あっ、ごめんなさい……

侑芽が両手で口を塞ぐと
由美子はケラケラ笑いながら

由美子)ええのちゃ!私と洋平さんはねぇ……

山崎と由美子の馴れ初め。
それは航も初めて聞く話だった。

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