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【小説】連綿と続け No.39

糸子から将来の事を聞かれ、固まる2人。

航・侑芽)……!?

糸子)あれ?まだやった?けど、いずれはそうなるやろ?

侑芽)えっと……

侑芽は戸惑いながら航を見る。
航はあたふたしながら

航)そ、そがなこと、まだ話しとらんちゃ!何を言い出すのちゃ!

糸子)けどこの前、歌ちゃんが「航にようやくええ人ができたさかい、こんで蓬莱屋も安泰や」て言うとったよ?

航)はぁ!?なんでそんな勝手なこと……

正信)そいがそいが!それ聞いたばっかりやさかい、ワシらもてっきり今日はその挨拶に来たんやて思うとったが。違うがけ?

ただただオロオロしている侑芽。
航は必死になって取り繕う。

航)そんなこと1つも言うとらん!そら付き合うとるんは事実やけど……

糸子)やっぱりそうなが!?ひゃーっ!もういつあの世に呼ばれても構わんちゃ

正信)何を言うとんが!ほんなら尚更、まだあの世にはいけんやろう。航、頼むさかい、ワシらの目の黒いうちに、祝言しゅうげんあげてくれま。できたらその……お前が十三代目になって、十四代目の顔を見せてくれたらもう、胸張って冥土めいど土産みやげにするさかい!

糸子)十四代目!?ひ孫まで!?長生きしとって良かった〜

航)婆ちゃん!気ぃが早すぎる!

糸子)そう?けど侑芽ちゃんはどう思うとるが?航とずっと一緒におってくれるがけ?

侑芽)それは……はい。一緒にいたいですけど……

航)…!?

正信)ほれやったら決まりちゃ!こっちゃもう楽しみしかないわ!こがな歳になるとねぇ、楽しみも減ってしもて、冠婚葬祭なんて葬式ばっかりや。やさかい久しぶりにええ話が聞けて、ワシはもう、涙が出る!

糸子)そうや!ご先祖様に手ぇ合わせてくるけ!

正信)そいがそいが〜

話が勝手に進み、困惑する2人。
だが正信と糸子があまりにも嬉しそうにしているから、
ひとまず受け流し、
そのまま昼食を馳走ちそうになった。

航)今日はありがと。また来るちゃ

侑芽)色々とありがとうございました!

糸子)またいつでもおいで

正信)あぁそうや!侑芽ちゃん、あんたこんな言葉を知っとるけ?

侑芽)……?

正信)積小為大せきしょういだい

侑芽)すみません。勉強不足で…

正信)これはな、二宮尊徳にのみやそんとくの言葉で「小を積めば、すなわち大とる」言うて 、小さい事が積み重なって大きな事になる。 やさかい、大きな事を成し遂げよう思うなら、小さい事をおろそかにしてはならんっちゅう事や

二宮尊徳とは、
一般的には二宮金次郎と呼ばれる
江戸時代後期の農政家である。
薪を背負いながら読書に励む
勤勉な子供時代の像でも広く知られている。

侑芽)とっても素敵な言葉ですね!

正信)侑芽ちゃんはまさに、これをしようとしとるんや思うて、久々にこの言葉を思い出せた。ありがとう!

侑芽)こちらこそ、ありがとうございます!

侑芽と航は
帰りの車中でこんな話をした。

航)なんや話が変な方にそれてしもて、かんにん

侑芽)いえいえ!とっても楽しかったです!

侑芽は将来の話をされた事をすっかり忘れている。
だからあっけらかんとしている。
だが航はずっと気に留めていた。

航)さっきの話やけど……本当なが?

侑芽)さっきの話?

航)俺と、ずっと一緒におりたいて言うたやろ?

侑芽)はい。言いました、けど……

航)けど?

侑芽)結婚とか、急にそんな話されちゃったから、驚いてしまって

航)それは俺も同じちゃ。まぁ年寄りの言うことやさかい

侑芽)でも私、お話をして思ったんですよ

航)……?

侑芽)いつか航さんとそうなれたらいいなーって

航はそれを聞き、
動揺と歓喜でおかしくなる。

航)な、なんやそれ!けど、それはどういう……

侑芽)だから、航さんといつか結婚できたら幸せだなーって。ダメですか?

自分からそんな事を言う侑芽。
航は内心喜びつつも
それを隠すように

航)アホ!そんなんは男から言うもんやろ!なんで侑芽が……

侑芽)ごめんなさい。調子に乗りました

航)別に、ええけど…

なんとなく気まずいまま、
侑芽のアパートに到着する
航は車を降りようとする侑芽を抱き寄せた。

航)さっきの話やけど、俺もいつか、そうなればええて思うとる

侑芽)え……

航)けど今はまだ、侑芽の邪魔はしたない。やさかい、いつか……

侑芽)はい……

離れがたい2人はいつもこうして
別れ際に抱き合う。

そして今日も
航の車が見えなくなるまで見送る侑芽。
遠くで光るハザードランプを見届け
小さく手を振った。

2人の未来がうっすらと見え始めた頃、
純喫茶「あいの風」では、
夜のスナック営業に切り替わる時間になっていた。

礼子が店を開けようと外に出ると、
亡霊のように立っている人物がいる。

礼子)え!?あんた……どうしたが!?

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