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【小説】連綿と続け No.41

『高瀬遺跡で蛍の写真を撮ってから向かいます』

今日は航の家に泊まる約束をしている。
侑芽は航にLINEを送り、
高瀬遺跡に引き返した。

到着すると夜にも関わらず
蛍鑑賞をしに来ている人々がちらほらいる。

そんな光景を眺めていると、
先に着いていた西川が手を振っている。

侑芽)西川さん!お疲れのところすいません

西川)なん。疲れとらんよ。それにしても結構見に来とる人おるね!

侑芽)有名なんですね〜。全然知らなかったです

西川)混む前に行こう

侑芽)はい!

暗くなり始めた園内。
昼間とは違う幻想的な雰囲気の中、
花菖蒲が一層映えている。

月明かりがうっすらと照らし、
水路流れる茂みから光が湧くように
ついては消えを繰り返している。

侑芽)わぁ〜。綺麗……

西川)綺麗やなぁ

侑芽)蛍見るの、何年ぶりかなぁ

暗闇を飛び交う光の群れ。
美しくも儚いその点滅は、
いつまでも見ていられるようだった。

西川)ここの水路、昔の荘園跡を再現した人工の水路やさかい、ここよりも外を流れる小川の方が飛んでるらしいが。行ってみる?

侑芽)そうなんですね。でも一応、ここも写真撮っておきます

花菖蒲と蛍をカメラにおさめるため、
侑芽はスマホを手に何枚も写真を撮る。

フラッシュは焚かない。
これは蛍撮影のマナーで、
素人なりに事前に調べていた。
そのため夜間撮影用のアプリで撮影するも、
なかなか上手く撮れない。

侑芽)ん〜……難しい

西川)こっちでも撮ってみるちゃ

西川は持参した一眼レフカメラで撮影をする。

西川)おっ!結構上手う撮れた!

そう言って
侑芽に撮ったばかりの画像を見せてくる。
侑芽はそれを覗き込み

侑芽)わぁ!プロのカメラマンさんみたい!

西川)それは言い過ぎや!

外を流れる用水路に出ると、
眩いばかりの蛍が無数に舞っている。

侑芽)本当だ。こっちの方が沢山いますね!

感動しながらはしゃぐと、
西川がその姿をカメラにおさめる。

侑芽)あ〜!また撮られた〜

西川)いや、蛍撮ったら一ノ瀬さんが写ってしもたんや!ほんとやて!

侑芽)だったら削除してください!

西川)それはできん!カメラ買うたばっなりやさかい、削除の仕方がわからん!

侑芽)えぇ〜

イタズラに笑う西川。
むくれる侑芽。
仕事の一環とはいえ
いつもより肩の力を抜いて会話をした。

だが撮影が終わり、
侑芽はさっさと帰ろうとしている。

侑芽)遅くまでありがとうございました

西川)いや……俺も見たかったし。それにけっこう楽しかった。あっ、撮った画像は送るさかい

侑芽)助かります。ではまた!

西川)あの、もう遅いし送らせて?

侑芽)でも私、今日はこのまま井波に……

西川は
侑芽がこのまま航の元へ向かうことを知る。

西川)航のとこ?

侑芽)まぁ、そうですね

西川)やっぱり航のとこけ……

西川の顔色が変わった。
侑芽はなんとなく気まずくなり、
わざと満面の笑顔を作った。

侑芽)西川さんもお気をつけて!

西川)うん、ありがと

侑芽を見届けている西川は、
思い立ったように侑芽を追いかけた。

西川)あの!

後ろから侑芽の腕を掴む。

侑芽)え!?

驚く侑芽に西川は真顔で問う。

西川)航は……優しいか

侑芽)はい。優しいです

西川)ほんまに?アイツ初めん頃、一ノ瀬さんに酷いこと言うとったやろ?それに昔から観光客のこと毛嫌いしとった。やさかい仕事の事とか色々言うてくるんやないけ?

侑芽)それは……確かに最初は怖かったです。でも今は、私の仕事を理解してくれて、応援してくれています。普段はとっても優しいんです

西川)それならええんやけど

侑芽の腕から力なく手を離した。

侑芽)いつも気にかけてくださって、ありがとうございます

西川)そんな、俺は……俺はな、あんたの事が……

「好きや」と言いかけた時、
侑芽の背後から
こちらに向かってくる航が見えた。

侑芽からのLINEを受けて
航が迎えに来たのだ。

西川は航に気がつき、
言いかけた言葉を飲み込む。
そして航も二人に気づいた。

航)侑芽!

その声にビクッとしてから
振り返る侑芽。

侑芽)航さん!

航は西川を睨みながら侑芽の隣に立ち

航)なんで一平がおるんや

侑芽)えっと、昼間ここでお会いして、蛍のこと教えてくださって、それで……

侑芽が説明している途中で
航は西川の胸ぐらを掴み

航)仕事にかこつけて人の彼女に近寄るんけ?

掴まれた西川も航に掴みかかり

西川)撮影しに来ただけやろ!お前に文句言われる筋合いないわ!

航)そんな口実まで作って、昔から卑怯な奴やな?役所にメール送ったんもお前やろ!

西川)はぁ?何のことや。俺はそがな事せん!卑怯ながはお前やろ!昔から自分の事しか考えんで、人の気持ち踏みにじって

航)お前みたいに上っ面うわっつらだけの奴よりマシや!

侑芽)ちょっと、やめてください!航さん!やめて!

侑芽は揉み合いになった2人を
必死に止めようとする。
それでも2人はおさまらず、
互いが拳をふり挙げようとしたその時

「そこで何やってんの!!」

ある人物が大声で止めに入った。

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