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【小説】連綿と続け No.37

かつて正也の元で修行していた
山崎洋平が皆藤家に顔を出していた。

航の先輩であり師匠とも言うべき彼と、
侑芽は初めて会った。

侑芽)こんにちは!

歌子)ちょうど今、侑芽ちゃんの話をしとったとこやちゃ〜

正也)もう仕事終わったがけ?

侑芽)はい!今日はもう終わりなんです、ってあれ?お客様いらしてたんですね!失礼しました!そしたら私はこれで……

歌子)ええのよ!この人はね、昔うちで修行しとった山崎くん!航の先輩やちゃ

侑芽は話には聞いていた
山崎との初対面に驚きつつも
彼に挨拶をした。

侑芽)初めまして!南砺市役所・観光推進課に入りました一ノ瀬侑芽と申します!

山崎は「ほぉ〜」という顔をしてから
優しく微笑み

山崎)初めまして!山崎と申します。航が世話になっとるみたいで。これからも宜しゅうね!

侑芽)はい!こちらこそ宜しくお願いします!

正也)侑芽ちゃん!せっかくやさかい、あがりや?航ももうすぐ帰ってくるし

そう言われて中に入り、
4人で賑やかに話をしていた。

山崎)そう言えば今度のマルシェ、俺も出店するさかい、宜しゅうね!

侑芽)え?もしかして出店者の山崎工房さんって……

山崎)それ俺んとこやちゃ!

侑芽)わぁ!そうでしたか!ご出店ありがとうございます!

山崎)ほんで、どんくらい店出るんや?

侑芽)それが……予定では20店舗くらいなんですけど、なかなか集まらなくて…

マルシェへの出店者を募っているが、
初めての試みでなかなか集まらず、
現状10店舗しか決まっていない。

歌子)そうなが?そら大変やないの〜

山崎)そういうことなら正信さんと糸子さんに聞いてみるんが1番やないが?

正信と糸子は航の祖父母である。
侑芽は以前2人に会っている。

侑芽)実は私、前にご挨拶に伺って一度お会いしてます

歌子)え〜?そうやったの?

正也)昔話に出てきそうなとこやったやろ?

正信と糸子は、
正也達に代替わりしてから
散居村の屋敷に隠居した。

侑芽)とっても親切にしていただいて、航さんのお爺様お婆様とわかった時はびっくりしちゃいました!

歌子)アハハ!そりゃあびっくりしたろうね〜

正也)あの人らは色んなこと知っとるさかい、また話聞いてみられ

侑芽)はい!そうしてみます!

そんな話をしていると
航が帰ってくる。

侑芽)おかえりなさい!

航は帰ってくるなり
侑芽の顔を見てハニかんでいる。

航)おぉ、来とったがけ

歌子と正也と山崎は、
そんな航を見て笑いを堪える。すると航は

航)あれ?洋平さんやないけ!

山崎)おぉ!久しぶりやな!なんやお前、表情が柔らこうなったんやない?

航)そ、そがなことないちゃ!気のせいや!

そう言いながら
侑芽の隣に座った。

山崎)そう言えば、この前連絡くれた件やけど、俺なりに色々調べてきたのちゃ

山崎は鞄からウッドリングの資料を
取り出そうとしている。
航は侑芽に知られたら困ると思い、慌てて

航)ちょ、ちょっこし待って!ここやのうて工房の方で!

そう言って目を泳がせている。
山崎はそれに気がつき

山崎)そうやったな!かんにん!あっちで説明するさかい、ちょっこしええけ?

航)はい!お願いします!

2人は工房に行ってしまい、
コソコソ話をしている。
侑芽は不思議そうな顔をして
そっちを見ている。

侑芽)航さん、何か作るんですか?

正也)あ〜…えっとぉ、新しい受注の件やったかなぁ?まぁ大丈夫ちゃ!侑芽ちゃんは何も心配せんでええ!

歌子)そいがそいが〜!アハハハ!

侑芽にウッドリングの件をバレぬよう、
歌子と正也は大声で
とりとめのない話を続けて場をもたせた。
そして山崎が帰る時間になり

航)今日はありがとうございました

山崎)そんなんええさかい、頑張りや!

山崎は意味深に笑ってから
今度は侑芽に

山崎)侑芽ちゃん!こいつ色々難しいとこあるけど、嘘はつけん正直な奴さかい、宜しゅう頼んます!

そう言って笑顔で去って行った。
山崎を見送った航は

航)侑芽、そろそろ帰ろう

歌子)え〜!?もう帰るが?夕飯食べてかない?

正也)そいがそいが!そうせい!

航)いや……悪いけど、今日は2人で食べるさかい、また今度な

航はそそくさと帰り支度を始める。

歌子)そ〜お?ほしたら侑芽ちゃん!また今度ね!

侑芽)せっかく誘ってくださったのに、すみません

正也)気にせんでええ!うちはいつでもええさかい!

歌子と正也に見送られて、
2人は皆藤家を後にした。

侑芽)歌子さんと正也さん、とっても残念そうでしたよ?

侑芽がそう言うと、
航は侑芽の手を握った。

航)俺は2人でおりたい

月明かりのもと
2人は手を繋いで歩く。

最近は平日も侑芽が航の家に泊まりに来ている。
今夜も外食をしてから
2人で航の家に戻った。

ここが自分の家のようになってきた侑芽は、
風呂に入った後、
化粧水をパタパタと顔に当てている。
そんな彼女の様子を航は見つめる。

航)もう一緒に暮らしとるみたいやな

侑芽)え!?そうですか?

侑芽がそう言って照れていると、
航はそっぽを向いてこう続けた。

航)俺はもう、そうしてもええて思うとる。

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