【2人/♂0:♀0:不2】Bar KAZAI-YA

注意:麻帆(まほ)は男性が演じる場合お好きな名前に変更OK。
ただし、【苗字変更は不可】とさせていただきます。

0:登場人物紹介
0:性別転換、アドリブ等に関してはすべて演者様にお任せします。楽しんでお芝居してください。
店主:店主役の方がタップ。KZAI-YAのマスター。大人な雰囲気でお客様をもてなすプロ。
麻帆:麻帆(まほ)役の方がタップ。仕事に疲れて彷徨っているとき、ふと見つけたKZAI-YAに入る。

【本編】

麻帆:最悪だ。何であんなミスしたんだろう。
麻帆:ちゃんと書類はチェックしたし、上司にも確認してもらったのに。
麻帆:……ってか、あいつも確認したくせに全部私のせいにするのもおかしいでしょ。
麻帆:本当に、ツイてな……ん?あれ?ここ、どこだ?

0:人気のない路地裏。見慣れない場所にキョロキョロする麻帆。
麻帆:やばい……考え事しすぎて、知らない路地入っちゃった。
麻帆:えっと……だめだ、全然方向感覚わからん。とりあえず、まっすぐ歩いてればどっかに出られるだろうし、行くか。

麻帆:それにしても変な場所。全然人がいないし……なんか、店もないし。こんなところ会社の近くにあったっけ……ん?お店?
麻帆:へー、こんなところにバーなんてあったんだ。
麻帆:……えっと、なんて読むんだ?くざい?かざい? う~ん、読めん!
麻帆:明日も仕事だけど、もうこうなったら飲むか! これも何かの縁だろうし!


0:麻帆が扉を開いて中に入ると、落ち着いたジャズが流れる店内に一人の男がいた。
店主:おや、いらっしゃいませ。
麻帆:あの、一人なんですが……。
店主:どうぞ、お好きな席にお座りください。
麻帆:あ、はい!えっと……。
店主:もしよろしければカウンターはいかがですか? ご覧の通りお客様はお嬢さんしかおりませんから。
麻帆:お、お嬢さん?
店主:貴女のことですよ。可愛いお嬢さん?
麻帆:えっと、あの――
店主:とりあえずおかけになってください。
麻帆:あ、はい。失礼します。
店主:外は寒かったんじゃないですか?
麻帆:あぁそうですね……今日は一番の寒さだって言っていましたしね。
店主:改めていらっしゃいませ。本日はどういたしますか?
麻帆:えっと……あの、私、こういうお店初めてで、その……。
店主:おや、そうでしたか。初めてとして私の店を選んでくださるなんて光栄だな。
麻帆:あ、いや……あの、たまたま道に迷って、それでたまたま看板を見かけて――
店主:それもまた運命でしょう。
麻帆:運命?
店主:そうです。たまたまと言いますが、その行動がここに導かれる運命だと言い換えたら……なんだか素敵になるじゃないですか。
麻帆:……ぷ、あはははは。面白い方なんですね!えぇっと……。
店主:白木(しらき)です。一応この店の店主ですよ。
麻帆:白木さん……。よろしくお願いします。私は民和(たみわ)麻帆と申します。
店主:民和(たみわ)さん。
麻帆:麻帆でいいですよ。
店主:そうですか。それでは麻帆さん、改めてようこそ。バー・カザイヤへ。
麻帆:カザイヤ……あぁそう読むんですね。
店主:はい?
麻帆:いえ、お店の名前……なんて読むのかわからなくて。それで気になっちゃって、気づけばお店のドアに手をかけていました。
店主:そうでしたか。まぁお客様にはよく読みづらいとは言われますがね。
麻帆:どういう意味なんですか?
店主:それは……まぁ滞在していただければわかりますよ。
麻帆:そうなんですか?
店主:えぇ。常連さんにはぴったりだってよく言われるくらいですから。
麻帆:ふーん……
麻帆:それにしても、いい雰囲気のお店ですね。バーって初めてで緊張したけど、カフェみたいな雰囲気で落ち着く。
店主:昼間は喫茶店をやっているんですよ。
麻帆:そうなんですか?
店主:えぇ、ですからバーですけどケーキとか喫茶店メニューも充実してるんですよ。
麻帆:あ、本当だ……すごい、どれもおいしそう。
店主:お酒にケーキも意外と合いますよ?
麻帆:え?そうなんですか?
店主:試してみますか?
麻帆:ぜひ!
店主:では、麻帆さんは今どんな気分ですか?
麻帆:え? 気分?
店主:えぇ些細なことでも結構です。嬉しいとか楽しいとか、辛いとか悲しいとか……
麻帆:えっと……
店主:もちろん、言いたくないことは言わなくてもいいですよ。
麻帆:……。
店主:ゆっくりでいいですからね。
麻帆:今日、仕事で失敗しちゃって……
店主:……。
麻帆:結構気合い入れて準備してた案件だったんです。めちゃくちゃ準備して頑張ったんです。
麻帆:でも……変なミスがあって。たくさん確認したんです。でも先方と食い違いがあって……。
店主:それは大変でしたね。
麻帆:何とか次までにって繋ぎ止められたんですけど、上司にもぼろくそに言われて、もう散々だったんです。
店主:そうなんですね。
麻帆:だから……しんどい、かなぁ。今の気持ちは。
店主:しんどい、ですか。
麻帆:えぇ、なんかもう辛いなって……って、すみません。こんな話。
店主:いえいえ、いいんですよ。
麻帆:なんか、お店の雰囲気といい、白木さんの雰囲気といい……安心して、ついぺらぺら喋っちゃいますね。
店主:いいんですよ、ここはそういう場所ですから。
麻帆:白木さん、そんなわけで、しんどい私に何かおすすめをください。
店主:そうですねぇ……。
店主:では、ラスティネイルはいかがでしょう?
麻帆:ラスティネイ?
店主:ウィスキーベースのカクテルなんですがね。ウィスキーはお嫌いですか?
麻帆:あまり飲んだことがないかも……。なんか、大人の飲み物って感じで。
店主:甘めのカクテルですから、ウィスキー初心者でも飲みやすいですよ。
麻帆:そうなんですね! じゃあお願いします。
店主:えぇかしこまりました。では――

0:居酒屋定員風に元気よくお願いします!
店主:ご新規卓一名様! ラスティネイルいっちょ~!
麻帆:ん?
店主:ラスティネイルいっちょ~! あ~りがと~ございます!
麻帆:白木さん? ちょっと?
店主:はい?
麻帆:え? 何、今の?
店主:何って、え? 何がです?
麻帆:なんでいきなり口調変わるんですか。
店主:なんでって言われましても……。
麻帆:ここ、バーですよね?
店主:バーですね。
麻帆:……ん?
店主:麻帆さん、どうされました?
麻帆:……え~っと、ラスティネイル……をお願いします。
店主:ご新規卓一名様! ラスティネイルいっちょ~!
店主:ラスティネイルいっちょ~! あ~りがと~ございます!
麻帆:ストップ!
店主:え?
麻帆:ん?
店主:なんですか?
麻帆:いや、だから何ですかそれ。
店主:どれ?
麻帆:だから注文した時の――
店主:ご新規卓一名様! ラスティネイルいっちょ~!
麻帆:居酒屋かよ!
店主:はい?
麻帆:いや、それ、居酒屋のノリですよね?
店主:え?
麻帆:しかもそのあと何なんですか!
店主:ラスティネイルいっちょ~! あ~りがと~ございます!
麻帆:それ! え、だれ。
店主:え?バイトの子。
麻帆:え?
店主:え、だから、店長とバイト。
麻帆:ん?
店主:ご新規卓一名様! ラスティネイルいっちょ~!
店主:これが店長ね。
麻帆:店長自ら注文取ってんのかよ。
店主:ラスティネイルいっちょ~! あ~りがと~ございます!
店主:これがバイトの子。キッチン担当。
麻帆:あぁあるある、あるよねーってねぇよ! なんで二役やってるの?
店主:え? おかしいですか?
麻帆:おかしいよ! さっきまでの雰囲気ぶち壊しだよ!
店主:まぁまぁお酒の味には変わりありませんから。
麻帆:いや、そうだけど!
店主:ほら、お作りしますからゆっくりなさってください。
麻帆:は、はぁ……。

店主:(元気よく)お待たせいたしました~! 本日のお通しの切り干し大根です!
麻帆:だから、居酒屋かよ!
店主:ドリンクの方、少々お待ちください~!
麻帆:いやだから、居酒屋! しかもよく聞く間違った日本語!
店主:はい、よろこんで~!
麻帆:唐突! 全然話がかみ合ってないから!
店主:お待たせいたしました~! ラスティネイルとビターチョコレートケーキです!
麻帆:テンション軽いんだよ!
麻帆:あ……でも普通においしそう……。
店主:(しっとりと)さぁ、試してみてください。損はさせませんので。
麻帆:いや、いきなり雰囲気戻すのやめてください。
店主:麻帆さんは面白い方だ。
麻帆:話聞いてます? 聞いてませんよね。
店主:さ、どうぞ。
麻帆:……はぁ。ではいただきます……。
麻帆:ん! 美味しい……ウィスキーってもっとクセがあるかと思ってたのに。
店主:まぁウィスキーにも種類は様々ですから。クセがあるものも多くありますよ。
麻帆:へぇ~そうなんですね。
店主:これは飲みやすい方ですね。ウィスキーにドランブイというウィスキーリキュールを合わせたカクテルなんです。
店主:それに合わせてチョコレートケーキを食べてみてください。
麻帆:(ケーキを食べる)…ん! 濃厚でほろ苦くておいしい……。それにカクテルとの相性もすごくいい。
店主:チョコレートはもともとウイスキーに合いますからね。
麻帆:………。
店主:どうしました?
麻帆:いえ……とても素敵な組み合わせなんですけどね……。
店主:ありがとうございます。
麻帆:本当においしいだけに……あの、切り干し大根が――
0:店の電話が鳴る。
店主:あぁ申し訳ありません、失礼いたします。
麻帆:いえ、電話は仕方ありませんよ。
店主:はい、バー・カザイヤです。はい、はい。
店主:かしこまりました。明日、二十時から二名さまですね。お待ちしております。
麻帆:予約ですか?
店主:新規宴会予約いただきました~!
店主:はい! よろこんで~! あ~りがとうございます!
麻帆:だからなんで、いきなり居酒屋風味なんだよ!
店主:え? なんでって……そりゃあこの店がそうだからですよ。
麻帆:……は?
店主:ですから、この店の名前。逆さに読むと……。

麻帆:さか、さ……。
麻帆:かざいや……や、い、ざ、か……屋、いざか……。


麻帆:居酒屋!
店主:へい、らっしゃ! ご新規一名、カウンター! は~あ、喜んで!
麻帆:いや、逆さ読みになってないから!


麻帆:この物語は偏見でできております。あらかじめご了承ください。
店主:ちなみにラスティネイルのカクテル言葉は、「私の苦痛を和らげる」。
店主:疲れて辛い麻帆さんの心が少しでも和らぐことを願って作りましたよ。
麻帆:いや、居酒屋空気のせいでぶち壊しだよ!

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