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タンタンの冒険旅行の背の色

三鷹の国立天文台のなかに、星と森と絵本の家という施設があります。
季節を楽しむイベントなどを行っているのですが、そこに、宇宙に関する絵本が並んだ本棚があります。
畳の部屋で好きな本を手にとってすごすことができるので、子供たちが小さい頃は、お気に入りの場所でした。

その本棚に、タンタンの冒険旅行のシリーズがあり(今もそこに、置いてあるのでしょうか)、『タンタンの月世界探検』(福音館書店)を初めて手にした子が、そこから動かなくなってしまいました。
長い時間。本を広げて背を向けたまま。
出会ってしまった瞬間を目撃しました。当時小学一年生。


タンタンの冒険旅行のシリーズは、ぜんぶで24冊あります。
私はおしゃれなタンタンの雑貨や、横書きのセリフの本には興味を持てずに通り過ぎてしまったため、大人になってからこの機会に、子どもと一緒に読み始めました。

いちどにシリーズを揃えるのが大変なので、工夫をしてすこしづつ集めることにしました。お年玉で絵本専門店で。年に1度開催される神保町ブックフェスティバルの出版社のワゴンで。今はわかりませんが、数年前までは、ちょっと傷のついた本が、半額で並んでいました。古本屋や、フリーマーケットで少し年上のお兄さんからと、何年かかけて、少しづつ買いそろえました。

映画化されたタイミングで、改定版とペーパーバック版が登場して、そこで、いくつかのバージョンが流通していることに気づきました。
区別せずに集めたため、バラバラですが、それぞれに思い出があり、なかよく並んでいます。なかでも一番古いのは、知人からのおさがりで、1983年発行の2巻です。

読むと時間がかかるせいなのか、難しい表現があるせいなのか……?
子供が低学年の頃は、自分で読まずに、寝る前の読み聞かせの時間にリクエストされることがありました。

読み聞かせ……
シンプルな絵本ならば1冊2~3分で読むことができます。
読み物だと、かいけつゾロリくらいの文字の大きい本ならば1冊だいたい45分くらい。雑談しながらで1時間かかる、と覚悟して挑みました。ゾロリを読んでもらうのは、じれったいようで、すぐに自分で読み始めました。

ところが、タンタンは1時間では終わらない! 
予め長くかかると時間を覚悟しました。大人は途中で眠気が押し寄せ、何度も挫折しました。聞いている側からすると、とてもいいところで音声がフェイドアウトし…… 読み手が意識を失いかけていたかもしれない。
だからこそ、ぜひ続きを、と熱心なリクエストがあり、何日もかかり、何回かに分けて、何度も読みました。自分で本を読むようになっても、タンタンは後の方までリクエストされていた気がします。

大人が声を出して読むことで、家の中にタンタンのシリーズのブームが押し寄せ、本を通じて、あちこちに”旅行”しました。ヨーロッパ各地に、チベットに、南米に、アフリカに、そして月に。

アルコールが大好きなハドック船長
インターポールからやってきた双子の警察官の変装ぶり、
お城の執事ネストル氏とまいどまいどの間違え電話、
聞き間違えの名人で発明の天才のビーカー博士
…と、勇気のあるタンタン少年の周りは、あまり頼りにならない大人ばかり。でも憎めず、面白いのです。

インターポールのことを調べて自分たちがインターポールの一員だったらと空想をふくらませました。インターポールといえば、仮面ライダーV3(再放送)でも、インターポールの友人が何回か登場してヒーローを助けていて、昭和の時代も、少年少女の憧れの存在だったのだろうと想像しました。

カスタフィオーレ夫人の微妙なセンスの歌声を想像しながら、メロディをつけて歌いました。そう、うちではあの歌にメロディーがついていました。
そして、自動車に、飛行機、電車、船、ロケット。昔の乗り物がとにかく格好が良い。レトロな建築物も。船長の住むお城のひんやりとしたなんとも孤独でさみしい感じ。

アジア、アフリカ系の人に対する表現もついて、違和感を感じて、歴史にも興味を持ち、地図を広げるきっかけになりました。うちの子どもにとって、初めて出合ったヨーロッパ出身の人はタンタンなのかもしれない。いろんな国があるのだと知ったのもタンタンの物語を通してです。

でも、一番のお気に入りは最初に出合った月世界探検だったようです。
シリーズが作られたのは、ソビエトやアメリカが競って月を目指していた時代です。子どもは工作で、月に行くためのロケットも、試行錯誤しながら何基も作っていました。そうか、目指すのは宇宙ステーションじゃなくて、月なんだ……と納得しました。月を眺める回数も増えました。
当時の夢は宇宙飛行士。『宇宙兄弟』の影響もあって、まわりにもライバルがたくさんいた気がします。遊びながら、本棚から何冊も出して読んでいると、散らかる、散らかる。

タンタンのシリーズは、ドラえもんと並行して、引っ張り出され、大好きでしたが、高学年になると興味が他の漫画へと移っていきました。
出番は減りましたが、並べた時の背の色がきれいだったので、そのまま本棚の1コーナーに残しました。

背のタイトルデザイン、使われている文字のフォントなども微妙に違い、抜けている巻もあります。コレクターからすると残念で、納得がいかないのでしょうが、そこは気にせず並べてます。
なぜなら、背の色をグラデーションにして並べて、遠くから見ると、背の色がきれいだからです。日本の本の配色と少し違うようで。とはいっても、これは日本語版だし、日本のインクや紙を使用しているだろうし、どこまで原作に近いのかは、比較していませんが、それもまた好きです。カバーをつけていないので、日焼けをしないように気を付けています。

うちの本棚で、今はなかなか開かれることもなく、美しい色の背を並べていますが、時々順番や向きが変わっているので、誰かが気晴らしに開いたりしていることもあるようです。


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