うちの世界地図は曲がっている

 うちで”地図”といえば、トイレに貼ってある1枚を指す。
最初はリビングに貼っていたが、誰も見なかった。実家から運んだ地球儀もあったが、窓際においていたせいか、光をたっぷり浴びて紙が剥がれて処分した。
 トイレにはアルファベットや日本地図を貼っていたが、経年劣化で端っこがめくれていた。
 そこで、防水性のある大きな世界地図に買い替えて、トイレに貼ることにした。

 残念なことに、うちのトイレは狭く、壁も狭い。つまり、大きな地図を貼ることができないということを、買って広げてから気づいた。
 そこで、折り曲げて、左横と正面の壁の2面を使い、やや見上げるような位置に貼ることにした。2面が地図に囲まれていて、これなら嫌でも目に入る。

 ヨーロッパが左横にあるので妙に身近に感じ、カスピ海のあたりで縦の折れ目、アジア、オセアニアと常に向き合い、左端縦に水色の字のネアズ海峡は遠く、簡単には読めないというゆがんだ世界が広がる。折れ目のあたりの地名の把握が苦手なのは、この貼り方のせいだと思う。
 朝は視力のチェックに。ラリック列島と、ラタック列島の区別が出来たら、眼の調子がいいということにしている。

 重要なニュースが起きた時は、テレビや新聞では画面を使って地図で場所を示してくれることが多い。
 うちの地図が活躍するのは、そうでもない、ちょっと気になる程度の場合だ。

 気になったら、答えを確認しに直行する。
 スマホの電源を入れるよりも、ちょっと早くて、位置関係がわかりやすい。トイレが離れている大きい家ではそうはいかないのかもしれない。

・ワールドカップの次の相手国
・クイズで出てきた世界遺産のある国
・紛らわしいカタカナの地名
・力士の出身地
・ラジオで聞いたリスナーの印象に残った旅先
・図書館で借りた本の舞台……など

 何回か唱えながらすぐに調べないと、記憶からなくなることが多い。
 ひと手間かけてトイレに行くと、その時の状況と一緒に記憶に残ることがある。寒い日は、家族でじゃんけんをして、負けた人が代表となり、足を使って(トイレまで)調べに行く。

 見た人は『アジアのあの辺だ』などと、おおよその答えを残りの人に伝える。地図を使わずに相手にヒントを考えるのも頭を使う。

 地図の余白に国旗も並んでいる。これも地図と離れていて、わかりにくいけれども、普段からぼんやりと眺める。

 簡単に行けそうもない遠い場所ほど、トイレの地図で場所を確認しておきたくなる。


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