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どうか、クビにしないでください、春。

桜散り始める春の日。
わたしは延々と黒いキーボードを打ち付けながら、黒いヘッドセットから聞こえる怒号を淡々とメモしていた。
「お客様のおっしゃるとおりでございます。」
同じ言葉を繰り返ししゃべり続けていると

「ああ、ロボットになりたい」

と思う。
「ロボットになりたい」といった有名なアーティストがアンディ・ウォーホルだった。彼は高クオリティの作品を大量生産したいという希望から出た言葉みたいだ。その気持ちが何十年も時を経て、令和4年にも響いている。「ロボットになりたい」
心身を壊れることなく、痛みもなく、感情ももたず、ただ金を稼げるロボットになりたい。延々となにか新しいものを生み出し続けるようなロボットになりたい。失恋も、失業もないロボットになりたい。

最近は燃料切れのロボットのごとく、言葉が出てこない。なにか話しても、話しているうちになにが言いたいのか、なにを話していたのかわからなくなる。言葉が絡まって、つまづく。それがストレスなのに、言葉が出てこないのでそれを人に話せない。話しても自分でもわからないうちに感情的になってしまったりして、それもなんでなのかわからないし、説明も思いつかないからただしんどい空気だけになってしまう。しまいにはなにも考えられなくなる。考えようとするのに頭の中が真っ白になる。うまくいかない。

そのことをカウンセラーに伝える。

「体は休まっても心が休まらない状態が続いていますね。言葉が出ない、頭がぼーっとしてしまう症状は、本当に体が動かなくなってしまう手前の状態と言ってもいいんですよ。一番は休息が大事ですね・・・長期的に見て、お仕事を休む、やめるといった選択肢もあります。長い目で見て、考えてみてください。」

仕事をこれ以上減らしたところでなんのために働いているのか全く分からない金額しか稼げない。2月から3月にかけて、かなり仕事を休んでしまった。そのおかげで毎月毎月余裕がなく、カードの支払いもMajiで止まる5秒前。

今までの人生、生きていて余裕があったことがない。

「仕事でのミスとか、わからないことがあるとか、そういうのは全然カバーできるんだけど、休まれるとね・・・。上になんでこの子こんなに休んでるの?って言われたら終わりなんだよね。だから本当にやばくなる前に今のシフトが厳しいのであれば相談してね」

ついにバイト先からも危険信号が発令された。
まだ去年の11月にはじめたばかりなのに、こんなにも早く注意されるだなんて。恥ずかしさと申し訳なさと自分の体調がコントロールできない悔しさで打ちのめされそうになった。苦労して受かったバイト、簡単にはやめたくない。やめて、またバイトを応募し続け、落ち続ける未来を考えると憂鬱になる。しかし、明日の仕事の事を考えても憂鬱になるが、その度合いは明らかにバイトの応募に落ち続ける未来の方が辛い。もう少し、あともう少しやれば楽になれそうなくらい仕事には慣れてきたはずなんだ。仕事が出来ているかは自信がない。仕事が出来る周りと自分を比べてしまうからなのか、単純に自分がダメだからなのか、自身の行方はわからない。

生きることに全然余裕が生まれない。

せめて明日だけでも無事に仕事に行けますように。
せめてその日1日だけでも、無事に仕事が終わりますように。
せめて4月だけでもちゃんと出勤出来ますように。
せめてクビにだけはなりませんように。

ただ祈る事だけしかできず、桜前線は北上するらしい。

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