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妖精

 どうにもならない気持ちがある。当たり障りのないところで終わらせることができたならどれほどに楽だろうと考えるけれど、そううまくことは進まない。どうにもならない。

 誰かを呪いたい。誰を? 誰かを。誰でもない誰かを。顔のないあなたを。わたしはいつも呪っている。執念深く、粘着質に。

 わたしとあなたの記念写真で、わたしは木陰に隠れている。表情もぶれている。笑っているんだか、泣いているんだかわからない。ただただ不気味。その写真をわたしはいつも大切に持っている。部屋の隅に飾ってみたりもする。そんな時は風が吹かない。カーテンも揺れない。ただただ、澱んで沈澱した空気がわたしの周囲15センチばかりを覆い尽くす。その時、わたしは幸福を感じる。

 あなたのためのわたしでありたい。呪い呪われた身でありながら、わたしはそんなことを願っている。祈っている。あなたのためのわたしになれたなら。そんなことを願い、祈っている。

 幼少期から人に好かれなかったわたし。親からも愛されなかったわたし。わたし。わたし。わたしなんかが息をしていてもいいのかと思い悩む時もある。それでも死なないのは、ただ死ぬのが苦しそうだからだ。苦しいのは嫌。わたしはどうせ死ぬのなら人生の絶頂で死にたい。あなたと果てながら逝きたい。天国へ行きたい。

 わたしの中には妖精がいる。いつもわたしを慰めてくれる妖精。妖精は誰のことも傷つけない。なぜそんなことができるのかはわからないけれど、妖精は誰のことも分け隔てなく癒す。なぜそんなことができるのだろう? わたしにはさっぱりわからないけれど、妖精はそういう存在だ。たまに疲れたり怒ったりしているのかもしれないけれど、少なくともわたしは妖精のそんなところを見たことがない。

 統合失調症? いいえ、わたしは健康です。きっと。

 あなたのことを呪いたい。でもそんなんじゃいやだと思う自分もいる。苦肉の策を練る。なんとか今日を生きる。なんとか。

 あなたの愛しているが嘘だと気づいた時、わたしは生まれて初めて大人になった。その感触だけは忘れない。死んでも。たとえわたしに罰が下されて、苦しみ抜いて死んだとしても、そのことだけは忘れない。

 あなたを愛しているよ。いつだって。だから呪いたい。あなたとのセックスがどれほどに惨めなものだったか、あなたは知っている? それでもわたしはあなたを愛している。愛は愛でしか語れないもの。あなたを形作るすべて。

 あなたのことを呪いたい。わたしを大人にしたあなた。わたしから少女を奪ったあなた。あなたのことを愛しています。心から。

 親愛なるあなた。

(2024.4.23)

[BGM:Mr.Children - フェイク]

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