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8年間で体感3時間はのびたホーチミンの夜

世界各国の物書きでまわすリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」。9回目のテーマは「夜」。ハッシュタグは #日本にいないエッセイストクラブ 、ぜひメンバー以外の方もお気軽にご参加を!

過去のラインナップは随時まとめてあるマガジンをご覧ください。

ホーチミンの夜といえばクラクション

ホーチミンの夜はとにかく喧しかった。

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理由はバイクと車の走行音となによりクラクションで、その頻度は日本人の「すみません」に匹敵する。ある日、ベトナム人の友人に「クラクションもいろいろあるよね。『ちょっとごめん』『危ないよ』『どけこら』、みたいな…」と話したら、「それをネタにしたカナダ人タレントのSNSの投稿が流行ってましたよ」と言っていた。生まれ育った文化圏が違っても、同じベトナムに住む外国人なら感じるところはやはり似るのねと感心したもんだ。

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もちろん朝からファーファービービー鳴いているけれど、夕方5~6時の帰宅ラッシュタイムにそれはさらにレベルアップ。8時9時を過ぎても多少は減れどまだまだバイクは走っていて、「そもそもどこに向かっているの?」と疑問に思い、信号待ちなどで呼び止めて目的地を聞くという取材をしたことがあった。お互い車上という思えばすごい取材手法だけど、ベトナムではよく車上で道を聞くことが多いので当時はあまり違和感を覚えなかった。

で、そんな目的地なんだけど、意外と「なかった」。ただドライブしているだけの人が多かった。赤信号待ちの間に粘ってさらに深堀りして聞いてみると、「外で走っていると涼しいから」「家では家族がいるので走っているときだけ一人になれる」なんて回答も。最後のやつは、そのまま家庭と学校の状況が悪化(悪化?)していけば尾崎豊に進化しそうだ。

日本だと一人になりたいときといえば、まぁ外もあるとは思うけど、部屋がという選択肢も自然だ。だけどベトナムではバイクの上、なぜならば高校生くらいになると当たり前にバイクを持っているから。うわ~俺の好きなお国柄エピソードだ~と興奮したものでした。今気づいたけど、島でも夕方にバイクをかっ飛ばしてる高校生を見かけるのでそういうことなのかな…。島の高校生も当たり前にバイク(原付き)を持っている。

夜は家で静かに過ごしたい身の自分としては、どこにいてもほぼ確実にクラクションが耳に刺さってくるので、完全な静寂は望めなかった。でも、深夜になっても爆音おっさんカラオケが流れるこのホーチミンにおいては騒音としては屁でもない、むしろ人々の営みを感じられる心地よいBGMだ。

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ちなみに、ハノイの路地裏奥深くに入ったところの宿に泊まったときは、クラクションの音が一切届かず、久々の静寂に感動したとともにどこか物足りなさを感じたものだった。ハノイの路地裏はところどころもはや迷宮級で、街によってこうも違うんだなと驚いた。そういえば、よくあるハノイとホーチミンの比較論で、コテコテのハノイ人はホーチミンについて「ひったくりぼったくりの街だ」と言うのだけど、「大通りが多いので(土地勘がない人間でも)狙いを付けやすい」という地理的な背景もあるのかもしれない。

8年間で体感3時間はのびたホーチミンの夜

移住を前提にはじめてホーチミン入りした日は、飛行機の搭乗時間の遅れもあって到着は深夜の2時を回っていた。ホテルのあったレタントン通りは人っ子ひとり歩いておらず、時間も時間だしまぁこんなもんかと納得。

しかし、生活が長くなるにつれて、ホーチミンの夜は思った以上に短いと知る。移住直後の2011年は、夜9時の中心地であっても人はガクンと減り、10時にもなると人もまばらだった。これがハノイになるともっとすごくて、確かはじめて行ったのは2013年だったと思うけど、夜8時でそこそこの通りが完全にゴーストタウン。とはいえ、前述のとおりハノイは路地裏エリアが広く、ホーチミンに比べてひとつのまとまった繁華街があるというより分散しているので、人がかたまりやすいエリアがないことも関係していそうだが。

そういえば、観光で初めて行ったのは2011年だけど、当時は夜8時に飲食店を探そうとして結局見つからなかったんだよなー。まぁ、言葉も通じそうにない外国人だから入店を断られただけかもしれないけど。今はともかく、10年前のハノイはそんなところ(店が客を選ぶ)は大いにあったと思うから。

んで、「夜がのびた」っていうのは、ホーチミンにはグエンフエ通り、ハノイにはホアンキエム湖周辺などが、夜間歩行者天国に生まれ変わったことで、周辺にこぼれるお金をさらうようにカフェができ(ベトナムは夜カフェが定番の過ごし方)、夜もいろいろな楽しみ方ができるようになってきた。

夜にバイクで駆ける理由は「涼しいから」「家じゃ一人になれないから」だった訳だけど、たぶん歩行者天国ができたことで、「夜でも友達とゆっくり喋ることができる」というのも新規追加されたんじゃないかな。そりゃあ、それまでにもそういう場所を持っていた人はいるんだろうけど。エリア単位でできてこそ街を変えられるものだろう。

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そんな訳で、ハノイはよく分からないけど、というかホーチミンを離れて2年経つけど、最後の方では24時を回ってもそれなりに若者たちで賑わい、クラクションもまだ全然鳴っていた。以前企画で深夜1~2時のホーチミンの街を散歩したことがあるけど、そんな時間でも屋台が出て、若者たちが地べたに座って喋ったり、スケボーを楽しんでいたりしたので、時代の変化を感じたものだ。記事は下記。ヘンなタイトルつけてんなー自分。

それから間もなくのコロナだから、今は想像もできないくらい少なくなっているだろうけど、落ち着いたら完全に元通りになるんだろうか。なんとなく、可能なら、日本よりはシュパッと戻りそうな気がするなベトナムなら。

ちなみに、今いる沖永良部島の夜は「無音」「波音」「さとうきびざわわ」です。街灯も少ないので照明も月明かりもないと、路頭に迷います。意外と夜って、人間の行動を制限するからこそ、場所の本質が如実にあらわれる時間帯なのかもね。星空はとんでもなく美しいですよ。

前回走者、すずきけいさんの記事はこちら。

「イタリアの夜は遅い」からはじまるこちらの記事。夏なら19時でも明るくて、夏至にいたっては21時を回るとか(ちなみに日本は19時)。そこでなるほどー!と思ったことがあって、以前海外ZINEというメディアですずきさんに「夜景」をテーマに書いてもらったのですが、そこで、食前酒の文化がある、酒といっしょに軽食も出てくるけどボリュームたっぷりで、なんだかんだで夕食になっちゃう、という話があったんですね。「食前酒なんだけど夕食」というのは「明るいけど夜」という状況とつながる気がして、まだ行ったことのないイタリアの、点と点がつながって線になったというお話です。

次回走者はがぅちゃんさんです。なんとなく、がぅちゃんさんのバトンを受け取るか、がぅちゃんさんにバトンを渡していることが多い気がする。前回のテーマで書かれた記事はこちら。

「日本の恋しいもの」はやっぱり飲食チェーン店の味だよねということで、書いてある方向性は私と似るんですけど、さすが表現力高いなとふつうに感心しちまったい。とくに『いざお店で食べると、「ああそうだった、この味この味」と、答え合わせのような感じで充電完了する。』ってほんとそれ。

ラタトゥイユ・モーメントという言葉には感心したというか、「あ、ラタトゥイユってそういうものだったね!確かに家庭で簡単につくれるもんね!」と、それまでは「なんか洒落とる付け合わせ料理」と思っていたけど、この言葉でいろんな角度から分かった気がした。たぶんこれってマルセル・プルーストの小説「失われた時を求めて」のマドレーヌと同じだよな。紅茶に浸った一片のマドレーヌから、不意に幼少期の記憶が鮮やかに蘇るっていう。

以前フランス人の友人に「一番美しいと思う言葉は何?」と聞いたところ、「Madeleine de Proust(プルーストのマドレーヌ)」と答えてくれました。あなたにとってのMadeleine de Proustは?という質問もフランスでは定番らしい。というより、日本では聞き馴染みがないだけで意外と世界でメジャーかも。発音、文脈、言い回し、すべて美しいそうです。フランス語は話せないから発音はわからんけど、文脈と言い回しは理解できる。確かに美しい。

と書いておきながら小説はまったく読んだことないけどねー!すげぇ長いんだよ。だって「最も長い小説」ってギネス世界記録持ってるんだよ?ほな。

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