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わたしのいとしい、かいじゅう 2

社会復帰は思いの外いつも通りで
あれ?休んでたっけ?
というくらい私を日常に
ぽんっと落とした。

仕事が始まったら当たり前を大切にすると決めてた。

まずは挨拶から。

エレーベーターに乗っても
ドアを開けても
ドアを開けてもらっても
おはようございます、お疲れ様です、
そのどれも一方通行だった。

マスクのせいで聞こえなかったかな。

ソーシャルディスタンスを守るべく
言葉は交わさないけど少しずつみんなが距離を取る。
公園のベンチみたいな等間隔で
みんながスマホを覗き込み前屈み。

こんなに天気がいいのにな。

私たちは肌を重ね合う以外の理由で
もう他人とは触れないんだろうか。

お互いを大切にするために
必要とされる1M以上の間隔ってやつは
わたしをとても不安にさせた。

部下の退職日が延期になった。
このご時世、やはり転職は厳しいらしい。
店に残ってくれたら嬉しいと話す店長は
わたしに向き直してこう言った。

やりがいが見つけられないそうなんです。

そして続けた。
あと、疎外感をずっと感じてたみたいで。

あぁ、わたしはいつになったら
大切な人を大切におもってるということを
きちんと届けられるんだろう。

はやく家に帰りたくて時間を忘れたくて
仕事を詰め込んだ。
ご飯を作って待っててくれた旦那に会えたのは
日付が変わる1時間前。

やっぱりおうちが好きだなというわたしに
そっか、と制服を着てた頃と変わらない顔で笑う
この人が居てくれて良かった。今この時に。

今までみたいにやってくる、
当たり前をぶらさげて私たちを支配する。
慣れや日常ってやつは
明らかに2ヶ月前とは姿を変えた。

久しぶりの仕事はあっという間で
ようやくぐっすり寝れそうな気がする。

これまでとは
違う色の寂しさと一緒に。

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