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2023年超重要SSW,植城微香(うえき そよか)に関する覚書

0.対バンのもたらす殺傷力とは
毎回毎回色んなライブに行ってるとふと考える事がある。

それは「対バン」についてで、そもそも対バンとはメインで観たい(聴きたい)アーティストとは違って当初は初めて聴く人が多かったりであ、イマイチだな、とかまぁまぁだな、とか個別脳内で色んな感想を抱く訳であってなかなかシビアなものである。たとえメインのアーティストと旧知の仲であっても聴き手にとっては「合わないものは合わない」訳で最悪の場合その対バンアーティストが演奏している一曲すらも超絶長く感じることがある。そういう経験は山ほどあるし、そう考えると逆に「対バンが良くて音源を購入する、もっといけばメインを超えるぐらいに心を撃つ」という現象は本当に物凄い事だと思う。もっといえばこれは「殺傷力」と言えるもので以前Anlyに関して書いたブログ記事で以下のように述べている。

これはAnlyのライブに行く度に思ってるのだが、ループ・ペダルでのパフォーマンスを録音したLiveアルバムか、このliveの映像集でもリリースしてそれが多くの人の目に触れることがあれば、膨大な数のSSWの立場をなくしてしまうだろうと思う。

実際個人的に彼女のライブを体感したばかりに何名かのシンガーソングライターがネノメタル内ライブ・レギュラーリストから見事に落選してしまった。だってもうAnlyのライブのレベルを体験してしまったら幾人かのシンガーソングライターの音楽やライブが自分の人生に全く必要なものでは無くなってしまったのだ。僕らも別にアーティストに対して義理や人情で音楽を聴いている訳ではない。
これはシビアな話であるが"殺傷力"っていうのはつまりそう言うことなのだろう。で、今年の一月末、ものすごいケースに遭遇した。植城微香(うえきそよか)という女性SSWである。彼女がすごいのはAnlyの場合は音源を予習して完全装備でライブを見てそう思ったのだから多少そうなることもわかっていたのだが、植城微香の場合、今まで名前すら全く聞いたことすらなくて初聴きでお目当てのアーティストを凌駕するぐらい圧倒されてしまった事。もちろんそんな経験は一年に数回かるかないかぐらいでめちゃくちゃレアだと思うのだが今回紹介する植城微香(うえきそよか)というアーティストは初聴きで一気に私の中でメインストリームに躍り出た奇跡的な存在である本記事では彼女の魅力について楽曲とストリートパフォーマンスに絞って思う存分論じたいと思う。

1. 植城微香との出会い
まずは彼女との出会いを述べたい。あれは忘れもしない、1月31日の心斎橋にある真心場という関西近郊に住んでいるライブファンなら一度は耳にしたであろうライブバーでの出来事。この日天野花、Nachika、植城微香という女性SSWばかりの【Nachika 上京企画 特大スリーマン!「東西マイスター感謝祭!」】というイベントに行った。彼女がブルーとピンクのオーガニックな柄のセーターにダボっとしたジーンズというカジュアルなファッションで現れ、ガシャガシャっとギターを鳴らした瞬時にわかった。

あ、これは来たぞと。

そう、もう瞬殺的に「あ、この人は何かが違う。」と思ったのだ。どハマり決定。そう、そしてこの感覚には実は既視感があった。思い起こせば2019年の4月に神戸のアコースティック・フェスティバルにて、Anlyがミリタリー風のジャケットをラフに羽織ってふらっと現れた瞬間と驚くほど類似しているのだ。何というか、何の特別な演出もBGMもなくてもう存在自体が才能の塊ってかもはや存在自体が「音楽」というか、もうルックスだとかファッションとかどうでも良くって完全に音楽が身についている人のオーラというか、存在自体が音楽といっても過言じゃない何かがあったのを思い出した。

正にAnlyの衝撃ふたたび。

もうそう思ったらだめ押し感ハンパなくて彼女がパフォーマンスに突入するとそれはもはや当然のように確信に変わる。初めて聴く曲であろうにそのグルーヴ感やギターテクニックや勿論歌声に完全に心を持ってかれた。

ああ、凄い。よし、この人の音源を聴こう、今後絶対ライブに行こう、Twitterのプロフに彼女の名を入れよう、通知もオンにしよう、とすぐに決心したものだ。更に驚くべき事はAnlyのアコフェスの時とは完全に違って、彼女に関しては事前に音源はおろか、もはや「植城微香(うえきそよか)」という名前すら認知せずにライブ会場に赴いてにも関わらずここまでどハマった事である。正に対バン形式ライブの究極の醍醐味がそこにあったのだ。もうこれぞ本当の殺傷力だと思う。その時にパッと聴いた第一印象はそれこそ高音部ではAnlyを彷彿とさせる芯のある伸びやかな歌声と、どこか新山詩織を思わせる低音部との組み合わせがありそのある種、対照的な2人のボーカリゼーションの中庸をいく感じがとても聞き心地が良かった。そしてそんな聴き心地の良さを駆動するような曲調は完全にJ-POPのフィールドでありつつもどこかAnlyのみならず、竹内アンナだとか、Emi Nakamuraなどのインターナショナル感覚を踏まえたポップスを鳴らす人たちと近い印象があった。
.....とここまで記述して「今年に入って彗星の如く現れた」というトーンで語るべきだろうが音源も3曲入りのEPの入ったCDとそれらに収録している曲とは別にサブスクリプションにおいて3曲ほどの配信もリリースしたり、熱心な固定ファンがついている数多くのライブもこなしたり、もはやインディーズながらも既に3〜4年ほどのキャリアを積んでいる点に注意したい。これはもう完全に私の目が節穴だったのだと猛省するしかない。私は3年もの間何をしていたのだろう、ここまでの逸材を見失っていたとは音楽リスナー人生最大の汚点である。

2. 植城微香のスタンス
そして更に彼女の音楽人としての真摯なアティテュードを意味するもう一つのエピソードがある。これは3月6日のまだ肌寒い頃の大阪ルクアから梅田御堂筋線前の砂ゾーンへ移ったストリートライブで、とにかくこの日はどこにいっても警察にすぐに止められるわ、酔っ払いはヤジ飛ばすわである意味「呪われた日」だったのだが、まあ百歩譲ってそういう日もあるのは良いとして、とにかくこの日は缶ビール片手に騒ぎまくる老害以外の何者でもない産業廃棄物にすらならないゴミカスジジイである酔っ払いがギャーギャー騒ぎまくっていたのだ。警察も彼女らストリートライブ演奏者たちに音楽を止めさせるためにきたもののもはやメインの仕事がその酔っぱらいをも宥める方に移行していったみたいななかなかにしてカオスな1日だった。でも、植城氏は違った。そういう状況にも彼女は一切めげずに、騒ぎにならないようにマイクを通さずに歌い方を変えたり、ヤジにも「どうもすいません💦」と決して無視せずに反応したりととにかく臨機応変に望んでいた。しかし本当今思っても腹立つぐらいその酔っ払いジジイのヤジはなかなか耐え難いものがあったのだが「道路でうるさい音楽を鳴らすなや!!!!」などなどてめえの声の方がうるせえじゃねえかというツッコミ待ちのようなカスのような言葉で散々ヤジった後に何故か知らないけど「よっしゃ、もうお前の顔覚えたわ!!覚えとけよ、頑張れよ!」となんと前向きなことばを残して去っていってしまったのだ。一同唖然。彼女もそのジジイが去った後「あれ?今私応援されてた?(笑)なんか応援されたみたいやからまだ歌うわ。」とケロッと言って場を和ませてこの滞ったというか陰鬱な空気を一変させ、むしろ妙な一体感を生んでなんと盛り上がりに転じさせたのだ。昔からあるミュージシャンの魅力を語る時に「このミュージシャンは歌う事が子供の頃から大好きで...」というトーンで語られることってよくあるんだけど、他のミュージシャンと呼ばれる人々にこれぐらいの精神的なタフさというか歌うことへの執着心があるのだろうか?てかむしろそれぐらいの根性がなくてはそれを生業にしていくのは困難だろうとすら思えるが、それにしても彼女は本当に歌う事が好きなのだと思う。

3.ミニアルバム『SO』Disc REVIEW

収録曲
1.YOUR GIRLFRIEND
2.HI TO RI ZI ME
3.HERO
4.24 hours
5.drive
6.merry-go-round

ゆっくりとビートが目覚めるように始まる1曲目から、穏やかに眠りに落ちるような6曲目まで唯一無二の植城微香 ワールドが展開される。
タイトルの『SO』とはsoundでもありsongでもありsoulでもありsophistication (洗練)でもありSoyokaをも駆動する頭二文字。正にアートが彼女を必要としている、そんな時代の幕開けだ。18回聴いて確信した。タイトルの「GIRLFRIEND」とは自己でもあり他者でもあるが【let me be my girl friend】と心中叫んでしまう複雑な心象風景をドラマティックなアレンジで包んだ2023年のR&Bポップス。この人は複雑な気持ちをカッコよく表現するのが上手いと思う。

先行配信されている『HI TO RI ZI ME』もALの流れで聴くと一曲目の『GIRLFRIEND』の【let me be my girl friend】な思いとのシンクロを一層感じてより新鮮に響く。
個人的に

誰かと話す楽しそうな横顔なんてもう見たくない

『HI TO RI ZI ME』

のメロディに彼女も路上でカバーしている宇多田ヒカル、もっと言えば初期の『First love』辺りの要素を感じるのは私だけだろうか。
次に本記事でも散々語り尽くしてきた『HERO』が始まる。
スタジオ版ならではの聴き心地の良いサウンドプロダクションに乗っかる事で曲世界の奥行きを感じることに驚く。どこかナイーブな心情を吐露しながら身近な存在によって光明を見出すようなポジティティが存在し、2023年最強のアンセムだ。もうこのまるで空に解き放たれた鳥が大海原を駆け巡るようなアレンジで聴くとアコギ以上に更に曲世界の"エモ度"が増してくるようだ。前々から思ってて本スタジオ版を聴いて確信したが、専門学校などのCMテーマなりシネコンでやりそうなデカい青春映画の主題歌なりFMラジオのヘビロテ曲でも何でもいいから大々的にタイアップするべき超絶大名曲である。
そして本曲は『24 hours』『drive』などなど路上でもお馴染みのキラーチューンを経て本アルバム収録の全ての曲のように「他者への思い」を綴った『merry-go-round』で穏やかにクロージングする。ここで描かれている「他者への思い」とは植城微香にとって何を意味しているのだろうか、と考えた時にそっくり今の彼女の音楽シーンにおけるスタンスをも重ね合わせざるを得ない。
今現在「シンガーソングライター」と名乗る女性の音楽家の数だけでも半端なく多くて、数を数えようとなるとおそらくは途方もない数値が出てくるだろうってのはほぼ毎月のように開かれるライブイベントで見るたびに聞いたこともないような名前の人に数多く巡り会うことからももう明らかだ。そんな途方もない数の中からこれまた数多くいるリスナーにとっての「推し」が選出されることはもう並大抵のことではないだろう。だからこそ「植城微香の音楽はあなたのとってのGrilfriendであり、24hoursずっとhitorizmeできるHero的なポップアイコンでありたい」と言う彼女の切なる思いがブレイク間近のこの時期のリアリティとして本盤から潜在意識として溢れ出ているのではなかろうか。そして、そんなリアリティが痛々しくもならずにしっかりとポップミュージックとして機能している点に私は恐ろしく彼女のセンスをも感じるのだ。本盤は2023年にリリースされたアルバムの中でも最高にポップスに向き合った名盤であると断言しよう。
 このアルバムリリース以後、【植城微香】【SO】という二つのwordが音楽業界のメインストリームを駆け巡るだろう、そうするとまた彼女はそんなリアリティを新たな音像に変えてドロップアウトしてくれるだろう。
本盤が正に時代の変遷を感じるキッカケとなるようなDiscとなることを願ってやまない。

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