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【書籍まとめ】「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育 / 澤口俊之

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-----はじめに-8歳までが最も重要

子どもの頃ほど脳が大きく発達する時期はない。
脳は成人でも老人でも努力や環境によって発達するが、幼少期(8歳くらいまで)での発達の比ではない。8歳ですでに大人の脳の90%を超える重さになる。

視覚や聴覚、簡単な会話などは特に教育しなくても発達するが、
意識的に発達させるべき能力も当然ながらある。
「前頭連合野(前頭前野ともいう)」が担う知能である。この知能は「人間性知能(Humanity Quotient)」、略してHQという。
HQは高度なIQといわゆるEQ(情動知能)を含む総合的な能力で、とくに社会生活や社会関係に重要な役割を持つ。

子供でのADHDやLD、自閉症の子ではHQの低下が伴っている。
HQの「土台」を幼少期にきちんと育んでおけば「学力」や「社会力」が伸びる。

-----第1章 脳とニューロンの本質

人間各個体の最優先課題は、自分の遺伝子を残すことにあり、その意味で私たちは基本的に「利己主義」である。
他者を助けたり強調したりすることで、自分の遺伝子が残る可能性が高くなる場合には「利他主義」も採用する。

知能や情動を含めた「心」に最も深く関わっているのは大脳。
育児や教育で最も重要な前頭連合野は、前頭葉の一部として前頭葉の大半を占めている。

◆脳の領野

前頭葉:思考や計画、決断などの高度な知的作業と情動(感情の動き)の制御、運動制御。
側頭葉:聴覚と視覚認識(とくに色や形などの形態視)、記憶と情動。
頭頂葉:皮膚感覚と視覚認識(とくに対象の位置関係や速度などの空間視)、運動制御。
後頭葉:視覚。

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◆ニューロンの本質

ニューロンでの情報伝達は電気信号で行われる。伝達のために分泌される物質は「伝達物質」という。この伝達物質が次のニューロンがもつ「受容体」と結合することで、次のニューロンに電気信号が発生する。
カルシウム不足だと伝達物質がうまく分泌されず、脳の働きがにぶりイライラしたり、怒りっぽくなったりするので注意が必要。

ご褒美(報酬)を含めた「褒められること」で活動する脳領域はかなりあるが、最も重要なのは「ドーパミン系」である。
褒められることで「ドーパミン系」が働き、その結果、神経回路の可逆的な変化がうまく進む。つまり、学習が効率よく進む。

ここで重要なのは「ドーパミン」には「繰り返し効果」がある、ということ。
達成感や報酬が得られるとドーパミンが分泌される。するとやる気が出て、その目的に更に向かうようになる。そして目的達成をすればまたドーパミンが分泌され…のように。
ドーパミン系の「繰り返し効果」は「褒めることによる教育」の脳内のベースといってもよく、望ましい行動や能力を発達させる上で要となるもの。

叱られること(罰)はネガティブな情動体験である。その際には、ドーパミン系よりも「ノルアドレナリン系」が活動する。
「ノルアドレナリン系」は「即時効果」を持つ。

「ドーパミン系」と「ノルアドレナリン系」は幼少期で最も強く活動する。
子供を叱ることはとくに禁止的社会規範の習得には必須。
ただしあまりに強いネガティブな情動体験は、その後に悪影響を及ぼすので注意が必要。必要最低限にすべき。

-----第2章 臨界期とは何か

◆急速に発達する脳で起こること

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生殖器は必要になってくると大きく成長する。
脳も同じことで、幼少期には生まれ落ちた自然環境や社会環境になるべく「早く適応するため」に大きく発達する。
「幼児教育」が進化的にみても不可欠であることは、このことからもハッキリしている。

◆進化的に予想している環境

脳の構造や知能、あるいは性格に遺伝要因が相当な程度で関与していることは間違いない。
しかし、育児や教育を含めた環境要因は、脳の発達に大きな影響を及ぼす。

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貧しい環境:狭いゲージで1匹
標準の環境:普通のゲージで2−3匹
豊かな環境:広いゲージで10匹ほど

このような「環境による脳と知能の違い」は、生まれてから2ヶ月間ほど育てただけで生じる。つまり、その期間だけ異なった環境で育て、その後標準の環境に戻したどのグループでも、環境効果は大人まで持続する。

更に「豊かな環境」でも「人工的なトンネル」を入れ「比較的広い場所で走り回れることを人工的に再現」すると、効果がかなり高くなる。
つまり「進化的に予想している環境=EEEと呼ばれる」がもっとも重要。
Cf)ネズミは1匹で育つことを予想していない、海で生まれ育つことを予想していない。

◆臨界期の本質

ワタリガモのヒナたちは、生誕後に親がそばにいて、かつその親が動くことを進化的に予想して生まれてくる。
そしてその親を親として生誕後の短い期間で記憶化する、という遺伝的プランをもっている。
この刷り込みは(ヒナはしばらく目がよく見えないので)、生誕後10時間ほどすぎてから起き、15時間ほどでピークになり、25時間過ぎると刷り込みは起きなくなる。
つまり、生誕後25時間までが刷り込みの「臨界期」である。

EEEがないと刷り込みは起こらず、したがって臨界期も起こらない。

臨界期後でも学習はできるが効率は下がる。
(学習自体は「神経回路の可逆性」があり、それはある時点をすぎたら突然消失することはあり得ないため、継続されるものではある。)

EEEや臨界期はラットにもある。
しかし臨界期の間に貧しい環境で育てたラットを、臨界期が過ぎてから豊かな環境に移しても、環境効果はほとんどない。

◆「野生児」の症例から分かる事実

ヒトにとって「音声言語」は特徴付ける大切な脳機能で、短くても約50万年、現代言語に関しては10万年ほどの進化的な歴史を持っている。
そのため、音声言語に応じたEEEがある。「幼少期に音声言語に囲まれる」という環境である。

ちなみに「文字言語」はたかだか6000年ほどの歴史しかないので、文字言語の脳機能にはEEEはなく、また「文字言語の環境」はEEEでない。
文字言語の能力は自然にしていれば身に付くという能力ではなく、それなりの教育が必要となる。高度な計算もそうである。

ところが「音声言語」の場合、EEEがあればどの子どもも遅かれ早かれ自然と身に付ける。そのため「音声言語」の獲得には臨界期があり、この期間にEEEがなければ音声言語を獲得することは非常に難しくなる。

野生児で有名な症例はアヴェロンのヴィクトールと、アメリカ在住のジーニーである。
ヴィクトールは森林で12歳まで育った。その後パリにうつされ、医師から教育を5年間ほど受け、その記録が残っている。
しかし言葉を習得することはできなかった。

ジーニーは生後20ヶ月から13歳まで小部屋に閉じ込められてほとんど言葉に触れないという環境で育った。
ジーニーはその後手厚く看護されリハビリも受けたが、彼女の「言語能力」は3歳児以上になることはなかった。

これらの症例を踏まえれば「言語の臨界期」は12歳頃までと推定できる。
もちろん神経回路は幼少期以降でも可逆性を多少なりとも維持するので、臨界期を過ぎてからも言語の習得は不可能ではない。

◆第2言語の習得に必要なもの

アメリカに移住してきた人たちの年齢とその後の第2言語(英語)の習得や能力との関係

移住してきた年齢が7歳まで・・・第2言語の能力はネイティブと同様となる。
8歳を超えて移住・・・第2言語の習得能力は低下。
17歳以降に移住・・・年齢にかかわらず、低いレベルの第2言語しか持ち得ない。
17歳に移住した人と30歳頃に移住した人・・・同じ程度のレベル。

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◆ユニセフが提示する臨界期

ユニセフ(国際連合児童基金)の公式見解でも、いくつかの脳機能に関する臨界期が示されている。
両眼視、音声言語の能力、情動のコントロール力、仲間との社会関係力、そして算数の基本的能力に関する臨界期など。

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◆絶対音感の臨界期

8歳以下から音楽の訓練を受けると50%ほどが絶対音感を習得できる一方で、
8歳頃以降では3%程度しか絶対音感を身につけられない。
つまり絶対音感の臨界期は言語と同じように8歳頃まで。
臨界期内で音楽教育を受けても50%の子供しか絶対音感を習得できないのは、遺伝的要因。

また、幼少期から音楽教育を受けたプロの音楽家は「音楽家脳」という独特な脳をもつようになる。
脳が音楽を処理する方法が異なり、音楽に関する脳領域の神経回路が特別に発達している。

-----第3章 多重知能とその育成

今までのように、「臨界期内の幼少期に複数の知能を育むこと」は脳育成の基本となる。
複数の知能を心理学では「多重知能」と呼んでいる。

アメリカの心理学者ガードナーの説が有名。私たちの知能は次の6種に分けられる。
1.言語的知能
2.空間的知能
3.論理数学的知能
4.音楽的知能
5.絵画的知能
6.身体運動的知能
お互いにある程度独立している。そのため、ある1つの知能を伸ばせば他の知能も伸びるというわけではない。
また、その知能を担う神経回路は「使えば使うほど発達」する。
例)ある8歳の天才児が、アメリカの「大学進学適性検査」の数学のテスト(800点満点)で18歳を含めた中でトップクラスの760点を取った。
しかし、言語のテストでは290点だった。

幼少期は神経の可塑性が最も高く、単純な事柄を記憶する上で最も適しているため、多くの単純な事柄を記憶させることが大切。
「読み書きそろばん+音楽」など最低限のことは保育園や幼稚園で行うべき。
将来的には、小学校並みの「幼学校」を全国的に作り、幼少期の教育を体系的に行うべき。
現行の6・3・3制から6・6・3制(3-8歳、9-14歳、15-17歳)にするくらいの改革があってもいい。

-----第4章 人間性知能「HQ」

前頭連合野は、限られたリソースの中で、多重知能や記憶などをうまく操作するOSのような役割を担っている。
人間社会の中で、自分の脳と他者の脳を操作するその機能を「人間性」と呼んでいる。
「人間性知能(Humanity Quotient)」略して「HQ」と呼ぶ。ヒト特有のものである。

ヒトの進化的特徴の重要点は2点。
・家族と氏族社会の形成(遅くとも400万年ほど前から)
・組織的な採食行動-とくに狩猟-の本格化(200万年ほど前から)

生物の進化的に究極の目的は自分の遺伝子を次世代に残すことなので、利己主義が基本的な戦略である。
ただ、利他行動によって自分も相手も利益が得られる場合「互恵的利他主義」という進化戦略を採用することがある。
ヒトの場合、氏族社会を形成したせいで、この互恵的利他主義をさらに発展させて「共恵戦略」を採用するようになった。
そのため、例えば「殺すこと」や「騙すこと」は、氏族内での禁止的な社会規範として根強く持つようになった。(氏族間では別)

もう1つは、優れた未来志向性。
大型類人猿も多少なりとも未来志向性を持っていて、14時間ほど先まで見通せるという報告がある。
ヒトの未来志向性は突出している。

かくして、共恵戦略と未来性指向が最も重要な進化的な駆動力となってHQが発達。
HQは大きく2つの要素「未来志向的行動力」と「社会関係力」を含む。

未来志向的行動力・・・将来に自分なりの目的や問題を設定して、それを適切に実現してゆく能力で、企画力や問題解決能力、独創性、やる気・努力などを含む。
社会関係力・・・文字通り社会関係をうまく行う能力で、自己制御力・理性や「心の理論」(相手の立場に立ったり、相手の考えや情動を推測したり予想したりする能力)、高度な言語能力(交渉力や説得力)などを含む。

一般知能gF・・・統計学者兼心理学者スピアマンが1904年に発見・提唱した知能。

異なった種類の知的作業には、特異的な特殊因子(s因子)と、全ての作業に共通する一般因子(g因子)があることを発見。
g因子が一般知能。
その後の研究によって一般知能には2種類あることがわかる。その一種の「一般流動性知能gF」がg因子、すなわちスペアマンの一般知能に相当する。
前頭連合野、とくにその外側部がgFの脳内中枢である。言語性IQや空間性IQや行為性IQなどの個別的IQは、前頭連合野以外の脳領域で主に担われている。
つまりHQは、最上位のIQとしてのgFを含み、その他の個別的IQはHQには属さない。

アメリカでの大規模調整で、gFが高いほど社会的リスク回避と成功の主要な指標になり、gFが低いほど社会的リスクを負う確率が高くなることが、1998年に示された。
その後の調査で、gFが高いほど年収が多いことが再確認され、交通事故死や医療機関にかかる確率もgFと相関するとわかった。

gFはHQを担う前頭連合野の能力の指数となっているため、「人間的な社会内生存、婚姻、子育て」に深く関係する、と言える。いわば「社会力」(人間的な社会内生存、婚姻、子育てを適切に行う能力)の指数がgFである。

HQは共恵戦略と未来志向性が重要な進化的な駆動力となって発達したので「冷酷な切れ者」とか「画一的な優等生」ではない。
一言でいえば「自分の能力を最大限に活用して、自分やその家族のみならず皆の幸福のために前向きに生きる個性的な人物」という人物像となる。

◆精神障害はHQ障害なのか?

アメリカ精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM」では、精神障害のほとんど全てで、HQ障害が認められる。
またHQの基本的な役割は「人間的な社会生存、婚姻、子育て」なため、HQ障害によりそれらが困難になる。

HQが顕著に障害された例が、ASPD(反社会性パーソナリティ障害)。
ASPDの人の前頭連合野は、健常者に比べて10%以上も萎縮している。
他の知能が正常でも、HQが障害されると「社会生活が困難」どころか、「反社会的行動を繰り返す」ことすら起きる。
アメリカでは成人人口の3.6%がASPD。

◆ニートの一部はHQ障害症候群

日本でニートは1990年代から急増し、現在では60−80万人。
ニートの23%程度に発達障害かその疑いがあるという報告あり。

一流大学を出て一流企業に入ってから1年以内にドロップアウトしてニート化してしまう若者たちが近年増加中。
個別的なIQは高いし、記憶力も優れているが、前頭連合野の機能を調べるテスト結果は軒並み悪い。
要するにHQが低下している。
HQは急速に低下することもあるので(例えばうつ病に罹患した場合)、ドロップアウトしたためにHQが低下した可能性は排除できない。

-----第5章 HQ育成法(乳児期)

HQを幼少期から育成することは必須。
多重知能や記憶力を伸ばすことはむろん重要なことだが、それらをうまく効率的に使う脳間・脳内操作系の能力としてのHQが低いと「人間的な社会生存、婚姻、子育て」がうまくできなくなってしまう。

音声言語とそれを担う言語野(ブローカ野)は強い進化的基盤を持つので、「音声言語に囲まれる」というEEE(進化的に予想している環境)があれば、少なくとも基本的な音声言語は獲得する。
HQも音声言語と同様に、強い進化的基盤を持っている。

HQにも臨界期があり(8歳頃まで)、EEEがある。臨界期でEEEに囲まれて育てば、HQは自ずと発達する。
HQのEEEは、HQの特徴から容易に推測できるように「生誕直後からの愛情深い母子密着とその後の豊かな社会関係」を主軸とする。
HQはいわゆる「普通の環境」であれば自然と発達するようになっている。

◆HQ育成の落とし穴

スポック博士が1946年に著した「スポック博士の育児書」は全世界で5000万部売れた。
非常に問題のある本で、現在ではほとんどが否定されている。かつ、スポック博士自身が晩年位は自分の育児法の間違いを認めたほど。
この本は、20世紀半ばのアメリカでの「自立した人間を育てる」という思想に強く紐づいている。

しかし「自立」は脳科学にはあまり馴染まないタームで、ほとんど意味不明であり日本語で言う「自分勝手」と近いニュアンスさえある。
この思想による間違った子育てが「泣き癖がつくので赤ん坊をあまり抱くな」「乳離を早くさせろ」など。
このような非科学的な育児法に踊らされて育った子どもは、結局、協調性や社会性に乏しく、神経症的、人格障害的な大人になる傾向が強かった。

◆母親脳は出産直後につくられる

出産直後にお母さんから抱かれること自体は、新生児のその後の発育にさほど大きな影響をもたらさない。それより、お母さんにとって重要なEEEとなる。
成人になってからもEEEが脳機能やその修飾に大きな役割を演じる。その典型が出産と育児。
母親にとってのEEEがあり、その1つが出産後1時間以内に少なくとも20分間は新生児を肌に抱く。つまり出産後に臨界期がある。
それによりお母さんの脳は「育児脳」(母親脳ともいう)にシフトする。

乳児のHQ発達にとってのEEEは、良好な母子関係である。母乳による授乳が母子ともにEEEとなる。
脳育成学の観点からいえば母乳がよいのはもちろん。母乳で育てた子どものIQが、人工ミルクで育てた子どもより10ポイントも高い。
しかしIQが高い母親ほど母乳で育てる傾向があり、母親のIQと子どものIQは当然ながら相関する。
そのため「母乳で育てること」と「子どもの高いIQ」との相関はなくなり「母親の高いIQ」が主な要因であることがわかった。
それらをふまえて多変量解析した結果「生誕後、母乳だけで6ヶ月以上育てる」という条件が満たされる限り、「子どものIQが高くなる」という独立要因ということがわかった。

-----第6章 HQ育成法--幼児期

2歳頃までの乳児期で伸ばすべき最重要な脳領域は脳幹。
EEEに近い「音楽」(とくにクラシック音楽)を含めた多様な環境に触れさせるべき。

3歳頃からは別の脳、「幼児脳」に移行し8歳頃まで続く。
最も発達させるべき脳領域は前頭連合野で、5歳頃をピークにし、8歳頃まで急速に発達する。
しかし20歳を過ぎても発達は続く。年齢に応じた社会関係力(性関係も含まれる)を育むためである。
8歳頃までに急速に発展するのは、HQの主要な要素である「未来志向的行動力」と「社会関係力」の「基礎」である。

8歳頃までのADHDは、思春期でのCD(行為障害)の、そしてCDは成人でもASPD(反社会性人格障害)のそれぞれリスク要因となる。
逆に、gFが高いADHD傾向の人は、起業家や政治家、科学者などで成功しやすい。

◆「痛み」の重要性

ヒトの場合「心の痛み」と「体の痛み」は密接に関係している。
体の痛みを感じることは、生存にとって不可欠である。その痛みを「心の痛み」まで進化させてきたのがヒトの特徴の1つ。
そのため、臨界期までに「ケンカ」などにて「体の痛み」と「心の痛み」を適切に体験することは、HQの発達において重要である。
よって幼児期での多少の「ケンカ」は重要。

◆社会規範と音声言語の共通点

音声言語とHQはどちらも進化基盤が強く、それぞれのEEEがあれば自ずと発達することが、大きな共通点。
他の共通点としては、双方ともに文法があること。

◆自由保育がもたらす以外な結果

しつけや厳格さはとても重要である。とくに社会規範を身につける上で不可欠である。
また「規範を遵守するという規範」(メタ規範という)を教える上でも重要である。

こうしたことは1980年代の欧米での実験によってある程度実証済み。
厳格グループで保育された幼児たちは、攻撃的な行動や言葉が男女ともに非常に少なく、また遊ぶ人数も3-4人だった。
寛容グループで保育された幼児たちは、攻撃的な行動や言葉が著しく多く、2人で遊ぶことがほとんどだった。

◆「学力を上げる」という目的

叱ることで勉強させることは不可能ではないし時には必要。
しかし進化的に見て「目的を未来志向的に達成する」というのはヒトの特徴なので、自発的に勉強した方がよいことは明らか。
脳育成学的な方法論はドーパミンの繰り返し効果を利用する。目的を達成したら褒め、ついでより高い目的を設定し、その目的に向けて努力し達成したら褒め、の繰り返し。

目的の設定→努力→目的の達成→より高いレベルの目的の設定→努力 というサイクルをHQ育成サイクル、と呼ぶ。
幼児は放っておいても好奇心や探究心に基づいて何らかの「目的」を追求する。目的を達成することで「満足」という大きな報酬が得られる。そのため、HQ育成サイクルがが自発的に形成され得る。

-----第7章 HQを育てる日常生活

◆幼児のgFにどのような生活習慣・項目がどの程度関与するのか

5歳頃の幼児数百名

・gFにプラスに寄与する項目
母親との接触時間が長いこと
TV(とくにバラエティ番組)をよく見ること
公園などでの集団遊びの頻度が高いこと
祖母と接する頻度が高いこと
魚をよく食べること
箸使いがうまいこと

・gFにマイナスに寄与する項目
よく泣くこと
TVゲームをよくすること

これらはそれぞれ「独立要因」として寄与する項目。

◆母親との接触の重要性

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父親の存在はEEEなのだが、5歳頃の幼児には父親は大した役割を持たない。
しかし小学校低学年(6-8歳)では父親がgFに関係してくる反面、母親との接触時間は無関係になる。

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バラエティ番組では社会行動が豊富であるから、と思われる。

また少なくとも5歳頃の幼児ではTVゲームのしすぎは、gFに非常にマイナスである。

祖母と接触しない幼児のgFは、祖母と多少なりとも接触している幼児のgFに比べて平均25ポイント近くも低い。
 閉経後に長生きするのは霊長類ではヒトだけ。
 かくして、祖母は自分の子どもと孫の世話をすることで子孫を繁栄させるという役割を持っている。
 「祖母効果」といい、人類進化学ではよく知られた効果。

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胎児とっても魚はよく、具体的には妊婦さんが週に340g以上の魚を食べることで、子どもに好影響。
とくにその脂身に多量に含まれている「オメガ3脂肪酸」(有名なのはDHA)。
DHAとB12 が組み合わさった方が、脳の発育や機能の改善によい。

-----第8章 ワーキングメモリの訓練

ワーキングメモリは一見短期記憶に似ているが、短期記憶とはかなり異なった働き。
「自分や他人の脳の状態や活動などの情報を一時的に保持しつつ、そうした情報を組み合わせたりして答えを導く」という機能をする。
・思考や問題解決、創造性、自己制御、企画・計画性などにおける最重要な基礎。
・進化的には、社会関係力の最重要な基礎。
・未来志向性やgFと密接に関係。

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◆一般知能gFを伸ばす画期的方法

ワーキングメモリを伸ばす訓練でgFは伸ばせるはず。

[ワーキングメモリ訓練法]
・異なった数個の数字を順に見せ → 数秒たったあと → 2番めの数字は何だったか?
 各年齢層で1日10分間、週に5日ないし6日行った。訓練期間は2ヶ月。
 ⇨どの年齢層(園、小1、小2)でもgFは優位に向上。その平均の伸び率は13%もあった。
 ⇨またどの年齢層でも統計的に優位に小さくなった(gF格差が是正された)

 プラシーボ訓練でもgFは平均5%ほど向上。
 これはgFテストへの「慣れ効果(再テスト効果)」のせいだと考えられる。

高いHQが育成できれば、衝動性が低く、自己制御力・理性が高い、となる。
(自己制御力が低く、衝動的行動が多いのが、ADHDの特徴)

本来の学力は「情報を記憶化して適切に活用する能力」。この能力はワーキングメモリが必須。
 学習意欲は、gFとワーキングメモリ能力が高い幼児ほど高い。

この訓練が明確な効果をもつのは8歳まで。
その後の年齢ではあまり効果がない。

◆モーツァルト効果(1993年論文)

モーツァルトのピアノソナタ(K.448)を10分聴くと、空間性IQが平均10ポイントほど一時的に(数十分)上がる、というもの。
が数十分すぎると、もとに戻ってしまう。

◆幼児期に向上させたIQは、長期的に(成人になっても)維持される

以前までは「IQを訓練で向上させても、成人なるにしたがって低下する(性格には遺伝的に予想されるIQレベルに戻っていく)と考えられていたが、そうではないらしい。
やはり8歳頃までの幼児期で、gFを含めたHQを担う神経システムをよく発達させておくべき。上記の訓練を1日10分、2ヶ月行うだけでも十分。

◆遺伝子レベルの個性の活用

周知のように、医学の分野では遺伝子レベルの個性に応じた医療「オーダーメイド医療」が発展してきている。
同様に子どもたちの遺伝子レベルの個性に応じた育児、すなわり「オーダーメイド育児」の研究と応用が、今後の脳育成学の大きなテーマの1つになる。

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