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中吊りを 眺めて知るや 世の動き

 久しぶりに乗った山手線の車内広告を見てニタッと笑った。ドアの左側に「その抜け毛止めるなら 湘南のフィナス」、右側には「VIO脱毛経験者 この5年で約5倍に」と2つのA3大の広告があった。いずれも同じ美容整形外科の宣伝なのだが、片や毛が抜けるのを止めると言い、此方毛を抜いてくれると言う。最近抜け毛がやけに増えたと悩んでいる老人は、茶化されているように感じた。

 広告を眺めている内に、体毛が濃すぎることを気に病んでいる若い男性が脱毛するとか、若ハゲに悩む若者が近年増えているとか聞いたことを思い出した。そんな背景があるとすれば、広告主である美容整形外科のターゲットは若者だということになる。美容整形外科は薄毛の老人など相手にしていないと考えるべきだろう。茶化されたと感じたのは老人の自意識過剰だったことになる。ナーンだと再び苦笑い。

 電車内に広告が溢れていたのはいつ頃までだったろうか。10年前それとも20年前、車両は女性自身、週刊文春、週刊ダイアモンドなどの各種週刊誌、マンション、建売住宅などの不動産、お歳暮、物産展などの百貨店、進学塾、専門学校などの教育等々あらゆるジャンルの広告で彩られていた。通勤途上に車内の種々雑多な広告から話のネタを仕入れることができた。それが今や、いい歳した老人が美容整形外科の広告を繁々と見るほどに車内広告は数も減ったしバラエティーも無くなった。

 近年、電車の乗客の大半は携帯に見入っていて、車内広告に目をやる人など限られていた。そこに、コロナ禍によって乗客そのものが減る事態が襲って、車内広告は命運が尽きたのかもしれない。しかし、揺れる電車の中で携帯の小さな文字を読むのが辛い老人としては、車内広告には時間潰しの材料としてなんとか生き残って欲しい。美容整形であれなんであれ、社内広告がありさいすれば、老人はそれを見てあゝでもない、こうでもないと次々に妄想が湧いてきて時間の経つのを忘れることができるのだから。

                               (2022.09.16)

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