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旅ゆけば そこに人あり 飲み屋あり

居酒屋での邂逅

 旅の楽しみはご当地グルメにありとばかりに、米沢ではお昼に「すき焼き丼」、山形では「山形蕎麦」、酒田では「刺身定食」を堪能した。夜は、繁華街にある居酒屋で一杯やりながら、店の親父の話を聞くのが楽しみだ。

 親父ではなかったが、山形で入った居酒屋では店員に、ツマミにとった「たまコンニャク」のいわれを聞いた。店員は恥ずかしそうに「知りません。」と答えたが、次のツマミを持ってきた際に、「たまコンニャク」の由来を教えてくれた。
 昔、貧乏人が人の集まる席に持って行く弁当に、饅頭の代わりとして入れたのが始まりなのだと言う。店の人に聞いたのか、グーグルで調べたのかは知らないが、店員の誠実さが嬉しかった。

 酒田で行った居酒屋のお品書きに「孟宗竹汁(モウソウジルと読む)」とあった。カウンターの越に親父にどんなものなのか聞いた。

 「酒田は孟宗竹の北限で、やっと筍のシーズンになったのでね。モウソウジルは、この地方の定番料理ですよ。山形市のある村山地域はここより寒いので孟宗竹はないんだな。」

 「へー、孟宗竹の北限ね。ところで汁は味噌じたてですか。」

 「味噌じたてだけど、酒粕が入っているところが変わってるね。」

 「せっかくだから、絞めにそのモウソウジルと山形名物の蕎麦をもらおうか。」

 「モウソウジルにはご飯ですよ。それに、うちでは蕎麦は出していません。蕎麦は村山地域のもので、酒田の人間にとっては米が1番です。ここ庄内地域は昔から美味しい米が取れたんでね。」

 親父の話ぶりは、酒田のある庄内平野は昔から米どころで米が食えたが、山形のある村山地域は山に囲まれた盆地で米は食えず、蕎麦を食っていたと言っているようであった。酒田人の郷土愛か、それとも山形人への対抗意識か。

 山形の若い従業員の誠実さ、酒田の飲み屋の親父の郷土愛、どちらも旅の思い出として残るだろう。

(2024.05.10)

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