大丈夫なわけない
彼女と同棲を始めて半年くらいの今、当初の家事分担はどこかへ行き、いつの間にか僕が全任されていた。
仕事の終わり側に上司に仕事を任されていつもより帰りが遅くなった。
家に帰ると彼女がソファで横になりながらテレビを見ていた。僕に気づくと「お腹すいた!」と言ってくる。いつもは家事も終わり二人でソファに座りいつも愚痴を聞いてもらったりしている時間だ。
(おかえりも無いのか)と少し腹がたつ。
仕事がうまくいっていないこともあったのだが、いつもならなんてことないことだった。彼女に当たるわけにはいかないので「おまたせ」とだけ言ってスーツをハンガーにかけて晩飯を作り始める。
彼女は出来上がったものをテーブルに運んでくれる。僕が席に着くと「いただきます」と言って食べ始める。美味しいといつも言ってくれるがその日の僕は疲れていて会話も適当に返していた。
「げんきだせ!」
と言って彼女が僕の背中を叩き食べ終わってすぐにまたソファに横になる。無性に腹が立った。いつもなら彼女の一言で僕の大抵の悩みはどうでもいいことになる。
それなのに今日は違った。
ソファで横になってリモコンでテレビをつける彼女のいつもの姿に腹が立つのだ。
その姿を横目に僕はか食器を片付けていた。重ねて持ち上げたところでコップが落ちて割れた。「だいじょ〜ぶ?」とソファからこちらの様子を見る彼女。コップが落ちたのだから割れるし落としたのは僕だ。だがそれでもそのときは腹が立った。事もあろうに彼女に対してだ。
「大丈夫なわけないだろ」
そう言った僕を方をさっきのように横になったまま見てくる。
「僕は毎日大変なんだ。仕事に疲れたと思えば帰ってきて、君がやろうともしない家事をやって、今じゃもう義務みたいになって、仕事みたいで。こんな大変な生活続かないよ。」
「つかれた」
そう言って僕は寝室にこもった。
一度だけドアの前に彼女がきて、
「ごめんね、明日から私がやるから。」
その一言だけ聞いて僕は目を閉じた。
次の日の朝、目を覚ませばいつもはない物音がして、そういえば彼女がやってくれてるのか、どうせ雑にこなしてるんだろう。そう思いながら重い体を起こして様子を見に行く。
驚いた。外にあった洗濯物は畳まれて、朝ごはんはもうほとんど出来上がっている。昨日そのままにしていた割れたコップもきれいに片付けられていた。昨日怒ったてまえ褒めることができない自分をもどかしく感じるほどだった。
無愛想なまま椅子に座り作ってくれた朝食をとる。無言のまま食べおわり、皿を片付ける。
「いいからいいから。いつもやってくれてることは私がするからゆっくりしてて!」
そういって僕から皿を奪うと片付けを始め、そのあと自分の支度をしていた。
なんてことだ。
今すぐにでも褒めたい。褒めて褒めて褒めちぎりたい。
僕はそもそも甘やかすことが好きでそれで彼女と付き合い始めたといっても過言ではないのだ。
なんで昨日怒ってしまったのだ。優しく頼めば家事の一つくらいやってくれる人じゃないか。そしてそれを褒めればよかったじゃないか。
「いってらっしゃい」
僕は「うん」とだけ言って家を出る。
その日は一日中仕事が手につかなかった
家に帰ると彼女は晩御飯を作っていた。
「お帰り~、ちょうど今できるとこだよ」
椅子に座って作ってくれたご飯を食べるも、この時点で僕には申し訳ないという気持ちが生まれていた。
僕は謝ろうとしても話を切り出せずに結局ご飯は食べ終わり、僕の代わりをやってくれているのだから僕は彼女の代わりをするべきかとなんとなくソファに座ってテレビをつけた。
いつのまにか僕はうとうととしていた。
気づけば彼女は隣に座って僕によっかかって肩に頭をのせていた。家事を終えたらしく起きているかはわからないが言うなら今しかなかった。
「ごめん」
「わたしもごめん」
彼女はそういうと僕にひざまくらをうつぶせに僕の太ももに顔をうずくめてたまっていたものを出すように大きく息を吐き切った。これでこの空気も終わりかと少し楽になる。
「僕も家事やるから。いやなわけじゃないんだ。自分が作ったご飯を食べてもらえるのとか幸せだなって思うし。」
仕事中に考えていたことがやっと言えた。
「私ももっと手伝うから」
そういって顔を上に向けた彼女はあおむけになり僕の顔を見る。そのまま僕の首に手をまわして僕の体を引き寄せる。
「どうしたの」
いつもは甘えてくることなんてあまりない彼女に行動に少し驚く。
「今日は私が変わりに家事をやったんだから。甘えるのも私の役目なの。いつもやってくれてることは私がするから。」
そういって僕のほほにキスをする。
何度も言うが彼女は普段こんなに甘えてくることなどないのだ。耐えられなくなった僕は逃げられもせずにただ顔を上に向ける。
「いつもこうやって甘えてくるよね」
それはきづかなかった。彼女から見た僕はこんななのかと思うと余計に恥ずかしい。僕のかをはもう熱くなっていた。
「大丈夫?」
そういって僕をのぞき込むのが視界の端に映る。
「大丈夫なわけないだろ」
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