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ボヘミアンラプソディーに秘められたメッセージは何か? 〜切れ味ある戦略に insight あり!


ボヘミアンラプソディーに秘められたメッセージは何か?
 
世界での興行収入が9億ドル(約1000億円)を突破し、
第91回アカデミー賞で4冠に輝いた『ボヘミアン・ラプソディ』。
ロックバンド Queen の大ヒットした伝記映画です。
 
ある番組の中でブライアン・メイへの質問がありました。※1
「ボヘミアンラプソディーに秘められたメッセージは何か?」
そこで、
ブライアンは何と答えたのか?
 
答えのシーンに入る前に、録画VTRをいったん Pause します。        Thinking time 5分。
「まずは自分で考えてみよう!」 みなさんもご一緒にどうぞ。
 
「メッセージは何か?」ということは、歌詞の内容にヒントがあると考え、
私は、歌詞の内容をググって、おさらいしました。
そこから言えることは、ざっくりと
「生きる上での苦悩」
「心の葛藤」
 
切り口を変えて
「自分との訣別」
「母親に乞う赦し」
 
さらに
「性的マイノリティーであることの孤独」
苦悩、葛藤、決別、孤独など重いトーンの言葉が出てきます。
 
オペラのひと幕を模して、プロットが進み、場面の展開に沿って曲の構成が変化します。
大聖堂のような壮麗なハーモニー。
音楽空間を切り裂くようなブライアンのギター・リフ。
スリリングなほど目まぐるしく展開する曲調。
一通り考えて出た答え。
ここで私のアンサー。
 
ボヘミアンラプソディーに秘められたメッセージとは、
「人生の予想しえない〝ひと幕〟と〝苦悩〟のスリリングな連続である」
 
そこで再生し、答え合わせです。
「ボヘミアンラプソディーに秘められたメッセージは何か?」
ブライアンが答えます。
 
「誰にもわからない」
(えっ! 答えになってない!)※( )内は私の心の声です。
「誰にもわからないことに僕はむしろ感謝している」
(言っている意味がわからない!!)
「もちろん、フレディの心の中にはいろいろあったと思うんだ。
 ちょっとした魔法や空想やいろんな感情を織り込むのが好きだったから」(それはわかる)
「でもそれを解き明かすのは無駄だと思う」
(それを言ったら終わりでしょう)
「あの歌詞にどんな意味が込められているか、
 それは誰にもわからないんだよ」
(もういいです)
「あれこれ言う人はいるけれど『良くない』とはだれも言えないのが
 あの曲の凄いところさ」
「僕たちが世に送り出した曲が大勢の人生に影響与えたと
 言ってもらえるのはとても名誉なことだと思う」
 
これがブライアンのアンサー。
このアンサーが実は深いのです。 
では、曲をつくったフレディはどう考えていたのでしょうか。
ブライアン曰く、
「フレディは話したがらなかったんだよ」
ということでフレディはノー・アンサー。
アーティストらしい深〜いコメントもしようと思えばできるはずなんですが。
私は、フレディもブライアンも自分なりの答えを持っていたと思います。
 
ところが、
「メッセージは『誰にもわからない』」が答えです。
 
それでは答えになってないのです。
それはなぜか? 
そこで、さらに考えてみましょう。
 
あの曲を聴くと、インスパイアされます。
刺激的なインスピレーションが得られます。
インスパイアやインスピレーションの内容は聴く人、
一人ひとり異なるものです。
 
そして、私が考えたファイナルアンサー。
「具体的に〝これ〟とは特定できないが、
〝多くの人の人生に影響を与えるほどの強いインスパイア、
刺激的なインスピレーション〟そのものがメッセージだ」と。
 
発信者である〝 Queen として〟 のメッセージは『誰にもわからない』。
が、受け手としての、〝私にとって〟のメッセージ。それは明快。
送り手と受け手で異なるメッセージ。
『誰にもわからない』が『私にはわかる』メッセージなのです。
「誰にもわからないことに僕はむしろ感謝している」
とはそういうことなのです。
 
VTRを観ていて最初、このコメントの意味がわかりませんでした。
考えを深めて気がついたのです。 
 
Queen の insight が深い。深すぎます。
まるでブランドとパーセプションの関係です。
 
この文脈で言っているブランドとは「企業が何を伝え、どう行動するか」です。
パーセプションとは「世の中がどう認識し、判断するか」です。
「よく、ここまで考え抜いたものだ」といった insight 。
しかも一瞬にものごとの本質を見抜く洞察。
そういった insight を感じる戦略に拍手喝采です。           

「マイルスや、心に染み入る、ペットの音」 〜「言葉にならない言葉」と「譜面にない幻の音」


insight には「言葉にならない言葉」といった感覚があります。
直接的に言葉として発せられていないにもかかわらず、言語化して共通認識をえるのです。
 
  禅の思想の中に「不立文字」と言う考え方がある。まさに、文字で理解    
  することはできないと言う意味で、つまり、言語世界と言うのは私たち
  が了解しあっている世界の一部にすぎないことを表している。
  簡単にいうと、真理は言葉では表現できない、ということだ。
  〜『答えが見つかるまで考え抜く技術』 サンマーク出版 表三郎著〜
 
分析における insight も同じような捉え方ができるのではないでしょうか。
表面的には見えない。
簡単には浮き彫りになりならない、そういった深いレベルの洞察。
それが insight です。
言葉では表現できない真理を文字として現すのが不立文字。
自分たちが理解できている範囲で insight を捉えようとすると限界がありそうです。
 
  「マイルス・デイヴィスは、最高の演奏をしているときには譜面に  
  記された音ではなく「幻の音」を演奏すると言われる。つまり、
  音楽や歴史がもたらす影響を自分のトランペットが発するあらゆる
  音のニュアンスに加えているのだ。現代のトランペット奏者で
  デイヴィスに心酔しているテレンス・ブランチャードは、   
  「マイルス・デイヴィスが単純なフレーズを演奏すると、どれほど技巧
  的にすぐれたフレーズでも語れないようなエレガンスや美しさを備えた
  何かが表現されることがあった」と説明した。デイヴィス自身はただ
  こう言っている。
  「そこにあるものを演奏するな。そこにないものを演奏しろ」
  〜『なぜデータ主義は失敗するのか? 人文科学的思考のすすめ』
  (早川書房)クリスチャン マスビェア、  ミゲル B ラスムセン著〜
 
「マイルスや、心に染み入る、ペットの音」

私自身、学生時代、マイルスに心酔していたころ、
「なぜ、マイルスのトランペットは、こんなに心に染み入ってくるんだろう?」と感じていました。
譜面にない「幻の音」を聴いていたんですね。
余談ですがジャズにおける insight でした。

yiiiiiiiiipe! が炸裂するBeatlesのimpact 〜“どっか〜ん”戦略にはトリガーが潜んでいる


なぜ女性たちは叫ぶのか?
 
「サッカーでゴールを決めると大歓声が上がるけど僕たちが頭を振るのもゴールと同じかも」
 
コンサートで女性ファンが金切り声で叫んでいる理由を訊かれ、
ジョンレノンが答えました。
このやりとりを整理するとどうかなるか?
 
「女性ファンの金切り声とかけて、サッカーでゴールを決めて沸き起きる
 大歓声と解きます。その心は?」
「頭を振るからです」
(ウムッ?文章でまとめたらつながるイメージだったがなぞかけの共通点になっていない。Queenのようにはうまく流れないかもしれない。軌道修正しよう。)
 
なぜか?
表面的な言葉ではなく映像で共通点を確認しないと、その心は見えてこないのです。
VTRを確認します。※2
 
マンチェスター ABCシネマでのコンサート。
「Twist And Shout」がはじまります。
 
Shake it up, baby now!  ~Shake it up, baby 
Twist And Shout! ~ Twist And Shout 
Come on,Come on,Come on,Come on, baby, now  ~ Come on baby
Come on and work it on out  ~Work it on out
Ah ~ ~、Ah ~ ~、Ah ~ ~、Ah ~ ~、Wow ~
そうです。
最後のWow ~ 
Beatlesのメンバーは、この瞬間、頭を振っています。
振っているどころじゃない、髪を振り乱して頭を振り切っています。
そのシグナルに呼応するように女性ファンの大歓声と金切り声。
大絶叫の嵐。
聴くならBOSEのヘッドホンがお薦めです。
破れんばかりの耳をつんざくような大歓声です。
 
サッカーのGooooal! はネットが揺れるというシグナル。
BeatlesのWow ~ は頭を振るというシグナル。
それに呼応して女性ファンのyiiiiiiiiipe! が炸裂します。※3
 
見えた!共通項はこれです。
アンサー。

「人は頭が振れるのを観たり、ゴールネットが揺れるのを観ると歓声を
 上げ、絶叫するのです」
(う〜〜ん、また外したようです。冷静に軌道修正を図りましょう!)
 
コンサートホールの数万の女性の大絶叫というimpactの要因が
「頭を振ること」なのです。
impactは現象・事象としての影響力の大きさをいいます。
impactは、それを引き起こすトリガー(引き金となる要因)が鍵を握ります。
トリガーなくしてimpactなし。
 
サッカーでは、贔屓にするチームに何とか勝って欲しい。
はやる気持ちの中、繰り返されるシュート。
いっこうにゴールネットが揺れる瞬間はこない。
待って、待って、待ちに待って訪れるネットが揺れる瞬間。
それが、ファンタジスタの創造性に富んだ、華麗なプレーだったら、クライマックス! 
この瞬間にファンの凝縮した期待が爆発します。
“どっか〜ん”と。
 
一方でBeatles。
サビに近づいて、盛り上げて、盛り上げて、盛り上げてからの、
髪の毛振り乱しての頭の振り切りの瞬間。
女性ファンのBeatlesへのパッションが爆発します。“どっか〜ん”と。
つまり、ジョンレノンが言っている
「サッカーでゴールを決めると大歓声が上がるけど僕たちが頭を振るのもゴールと同じかも」
というこは、あるトリガーがあっての“どっか〜ん”だということです。
 
impactある“どっか〜ん”戦略にはトリガーが潜んでいます。
トリガーゆえの戦略なのです。
戦略には戦略的な“どっか〜ん”成果を創出するための
引き金となるトリガーの演出が鍵となるのです。

ビジネスの世界はinsightとimpactが溢れている!


分析の目的は、分析を通して知識を得ること、
その知識によって新しい価値を創出するために、
〝発見・気づき〟を得ることにあります。
 
分析結果のことをコンサルティング用語で〝 Finding 〟 と言います。
日本語では「見つける」です。
 
分析の結果、「何が見つかったのか?」「発見・気づきは何か?」が明確に示されていなければ
分析を行ったことにはなりません。
分析の結果、「すでにわかっていることが確認できました」ではヘボな分析です。
これが思いのほか、難しいのです。
 
皆さんもこういった経験があるのではないでしょうか。
あるお題を考えます。
簡単に答えが見つかるお題ではありません。
考えて考えて考え抜いて、あるとき突然答えが降ってきます。
「そうか!」「そういうことなんだ!」と。
事実に基づいて、分析を踏まえて、発見を求めても、論理的に考えただけでは得られない閃きある結論が向こうからやってくるのです。 
つまり、発見ある分析結果、 Finding が insight に変わるのです。
 
insight とは、直訳すると「洞察」です。
分析を深めることで「考察」になり、
さらに掘り下げることで「洞察」、 insight となります。
insight とは、マーケティング用語で「生活者の〝潜在的な〟本音」を言います。
 
いったん整理すると、
分析においては「観察」「考察」「洞察」の三つの深さの異なる捉え方が求められます。
 
□ 「観察」:事実を「よくみて、知る」。
単に見るのではなく、客観的に注意深く観るのがポイントです。
□ 「考察」:「よく考えて、くわしく知る」。
よく考えるためには、筋のいい「問い」を立てることがポイントです。
この「問い」によって「考察」が得られます。
□ 「洞察」:「深く考えて、本質を明らかにする」。
「考察」を踏まえて「本質」を見抜くことで Finding が insight に変わります。
 
戦略策定においては、それぞれの分析から、
 
〝競合もまだ知り得ていないような〟発見
〝顧客自身も気づいていないような〟発見

 
を先んじて、探し当て、新しい価値創出へのinsightを導き出したいのです。
そういったinsightから切れ味鋭い戦略が描けます。
 
insightを導き出したとしても、まだ半分です。
市場を創造し、顧客に響く圧倒的なimpactが必須なのです。
女性ファンのyiiiiiiiiipe! が炸裂するようなBeatlesのimpactです。
 
“もっと、がんばります戦略”や
“できてないところ、ちゃんとやります戦略”は
戦略ではありません。
「課題解決」の「オペレーション」です。
課題解決は、「短期的視点」のもとで、
「必達目標としての〝あるべき姿〟」を実現するために
「あれもこれもバランスよく」取り組むことで
「オペレーション」を回し続けます。
 
戦略は、「中長期の視点」に立ち、
「理想像としての〝ありたい姿〟」を実現するために
「集中/重点化/捨てる!」ことで
「イノベーション」を実現します。
 
どこかで聞いたようなセリフですが、
「ビジネスの世界はinsightとimpactが溢れている!」
世の中のinsightとimpactがもっと身近に感じられて、もっと世の中がよくなればと、
私自身、ささやかな貢献ですが「ビジョン&戦略」をテーマとする研修、
コンサルティングに日々、邁進しています。
          
【参考文献/注釈等】
※1:「特選! ドキュメンタリー/クイーン素顔のボヘミアン・ラプソディー」(NHK−BS1 2019年3月3日放送)
※2:「ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK」(NHK BS1 2020年1月16日放送)
※3:日本語では、「きゃーーー!」「ぎゃーーー!」」などの悲鳴の擬音語