三島由紀夫「命売ります」読んで。ニヒリズムは徹底してくれ。

日々の些末な小事に煩悶してしまう身からすれば羽仁男のニヒリズムが羨ましい。羽仁男は「不安になるのは命が惜しいからだ。」と言う。確かに僕らは明日以降も生きていることを前提にしているからこそ、どうでもいいことに頭を悩ませる。明日死ぬことが分かった時にこの世に悩みなんてなくなるはずだ。

ただ、日常を生きるということは、明日も明後日も生きているだろうと盲目的に信じることだ。そう思わなければ暮らすことなどできない。1秒後に死ぬかもしれないと常に意識してる人間は戦場にしかいない。だからこそ羽仁男という生き様に憧れてしまうのだ。観念そのものが世界と矛盾しているのだから。命の危機とは最も遠い世界でのほほんと暮らしているにもかかわらず、いつ死んでもいいと思っているという矛盾。その矛盾を抱えられるからこそ、小市民が抱える悩みを冷笑できるのだろう。あーかっこいい。

だからこそ、命を売り続ける内に死を恐れ初め、最期には涙さえ見せるみっともない凡夫になり下がる変貌ぶりには心底がっかりした。もっと徹底して無意味、無価値、無観念を貫いてほしかった。そんな非人間的な存在が救いになる人間もいるんだ。それは社会生活に馴染めず、努力を嫌い、死ぬ勇気も出ないどうしようもない凡夫たちだ。

僕は命を惜しむ前の羽仁男になりたい。

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