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昭和が終わる頃、軽井沢を舞台に繰り広げられたライト源氏物語があった

若い頃、アニメやドラマを見ていて、気がつくと自分が喫茶店のマスターに感情移入していた……ということがよくありました。みんなのたまり場、喫茶店。たいてい気のいいマスターがいますよね。そんな心優しき男の視点で、私は他の登場人物たちを眺めているのです。

私には主役をつとめる華もないし、ライバル役になるほどのクセもない。このストーリーの中に入れるとしたらマスターのポジションかな~と妄想していたわけです。時たまマスターに見せ場があったりすると、ちょっぴり自分のことのようでうれしかった。

喫茶店「ら・くか」のマスター、なんか好きだったな~と、久しぶりに『軽井沢シンドローム』のことを思い出しました。

大学時代、毎号買っていたビッグコミックスピリッツ。そこで連載されていて、なんとなく読むようになったマンガです。

主人公の相沢耕平はフリーのカメラマンでモテまくり。多くの女性と関係をもちます。それでいて、なぜか恨まれない。内縁の妻的存在である松沼薫も耕平が浮気したからって目くじら立てることはありません。

当時の私は古文に興味がありませんでしたが、今振り返ると、これ、80年代の源氏物語ですね。紫の上的キャラがいて、朧月夜的キャラがいて……。優柔不断で女性とちゃんとつきあえない松沼純生という「宇治十帖」の薫的キャラも登場します。舞台の軽井沢は別荘地。これも貴族の別荘地であった宇治のイメージと共通です。

登場人物が劇画タッチになったり、3頭身になったりして、当時としては斬新な手法のこの作品。シリアスなシーンもライトに楽しめて、そこもおもしろかったです。生活感があまりなくて、いい意味で浮世離れしていた「軽井沢シンドローム」。この言い方をするなら源氏物語は「王朝シンドローム」になりますかね。

喫茶店「ら・くか」は、軽井沢の恋多き人たちが集うところ。よくパイプをくわえているマスターは、女性に一歩踏み出せないがゆえの好青年です。地味な大学時代を送っていた私は、そりゃあ、自分を重ねますよね。

「軽井沢シンドローム」の連載は1982年から85年とのこと。翌年の86年、日本はバブル景気を迎えます。このマンガの不思議なフワフワ感は時代を先取りしていたのでしょう。画像検索して、30数年ぶりかなぁ、いくつかの場面を見てみましたが……私には色褪せていないように感じられました。

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