見出し画像

【編集/映画の瞬き】ウォルター・マーチによる「関連痛」の話

こんにちは!アメリカの大学で映画制作の勉強をしている者です。2022年秋学期はとても学びが多かったのですが、編集の授業をとっていたのにも関わらずその授業のことを全く書き留めていなかったことに気がついたので、今日もまたnoteを書くことにしました。

普段カメラの使い方や脚本の書き方に関する授業をとる時、どんな教科書を読むことになるかは教授によって異なるのが普通なのですが、編集に関する話になると大抵、どの教授にもウォルター・マーチの「映画の瞬き(In the Blink of an Eye)」を読まされます。

日本語版も出ていますし、映画に関する本の金字塔なので私も以前からこの本の存在は知っていたのですが、編集の授業をとって初めて本格的に読むことになりました。

授業では部分的にしか読んでいないのですが、その中でも特に私の印象に残っているチャプターが「テスト上映 - 関連痛 (Test Screenings: Referred Pain)」です。この章によると、人が体に痛みを感じる時、痛みを感じる部位と痛みを起こす原因となる部位は必ずしも同じではないとウォルター・マーチは説明します。患者が肘が痛いと言っている時、医者はすぐに肘を手術するのではなく、まずは全体像を把握し、次第に肩に原因があると突き止めることがあります。それは、痛みを起こす原因となる部位と、痛みを感じている部位を分けて考えているからです。

それと同じで、自分が編集した映像を他人に見せてフィードバックをもらい、問題点を指摘されたとき、その問題が現れている部分とその問題を引き起こす原因となる部分は分けて考えるべきだ、と彼は言うのです。

実際に、私たちの編集の授業の中でこの実例がありました。私たちの学期末課題は、30分のインタビュー映像を4〜5分にまとめて短編ドキュメンタリーを作るというものでした。最終的な提出日の前にラフカットをクラスメート同士で見せ合い、フィードバックを与え合うというセッションがあったのですが、その時とあるクラスメートのラフカットに対して他のクラスメートから「BGMが多すぎると思う」という指摘がありました。私達が見たそのラフカットは、たった5分のあいだに4つから5つほどの曲が使われており、たしかに「やりすぎ感」があったのです。

それを指摘されたクラスメートは「じゃあ曲を減らせば良いのかな」と言ったのですが、そこで教授が割り込んでこうアドバイスしました。

「多分、本当の問題は曲の数じゃないと思う。曲の数が多く感じるのは、曲と曲の移行部分がうまく繋がっていないからだ。曲はこのままでいいけど、この"やりすぎ感"を抑えるためには、それぞれの曲の以降部分をもっとスムーズにしたら良いと思う。」

教授のこのアドバイスを聞いた時、私は「これがまさにウォルター・マーチが言ってた関連痛の話だ!」と思いました。

「曲が多く感じる」という問題点(=痛み)がある時、その問題の原因(=痛みを引き起こしてる原因)は本当に「曲が多いから」なのではなく、「曲と曲の間の移行部分がうまく繋がっていないから」だったのです。これこそ、まさに問題点と問題の原因を見分けた例です。

この関連痛についての考え方が当てはまるのは、編集作業のみに限らないと思います。私が撮影監督として短編映画の撮影に取り組んでいた時にも、似たようなことが起こりました。

私たちはその時、とても温かみがあるシーンを撮影していたのですが、カメラ担当の男子がモニターを見て「主演女優の表情が不気味に見える」と言うのです。そのため、女優にもう少し明るく演技をしてもらうように促したのですが、2テイク目、3テイク目でも不気味さは消えませんでした。

そこでモニターをもう一度確認したところ、不気味さの本当の原因は女優の演技そのものではなく、ライティングだと判断しました。彼女の顔半分があまりにも暗かったので、バウンサーを使ってフィル・ライトを足してみたのです。

そうするとやっぱり、モニターから不気味さは消えました。女優さんには「あなたの演技が原因じゃないからね!光が悪かっただけだから!」と言って撮影を再開しました。

この場合でもやはり、問題点(=女優の表情が不気味に見える)と問題の原因(=フィルライトが暗い)を見分けることが鍵でした。

映画を作っていると、色々と改善点を見つけては修正する作業の繰り返しですが、早とちりして改善点そのもののみに注目してしまってはいけないんだな、と思いました。作品の全体像を見た上で、問題を起こしている本当の原因は何なのか?を見極めることが大切です。

そのため、痛みを感じる部位と、痛みを引き起こす原因となる部位は必ずしも同じところにあるのではない、というウォルター・マーチの教えを今後も常に頭に置いておこうと思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。それではまた!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?