君がやりたいことをすればいい

「お父さん 今年で定年退職になります。当日、ねぎらいのラインを送ってあげてください」

母からのLINEが届いたのは、師走に入り、年末が期限の仕事に追われているころだった。



我が家は5人家族である。
父、母、兄、姉、そして末っ子の私だ。
上の兄弟とは歳が離れており、私が小・中・高とゲームに時間を費やしているころに二人とも就職し、独り立ちしていた。

兄も姉も昔から活発な人間であった。

兄は無口ではあるが部活、サークル、就活、なにごとも真面目に行い、結果を出してきた。

姉は元気で明るく活発で、学級委員や生徒会に立候補するタイプ。交友関係も多く、コミュニケーション能力が高い。


そんな兄弟の下に、私がぽつんとやってきた。

幼少期から兄弟のプレイするゲームをみて育った私は、小学校になるとドラゴンクエストやファイナルファンタジー、クロノトリガー等のRPGを好んで一人でやっていた。

もちろん、友人と遊ぶこともあった。外で鬼ごっこもするし、友達の家に行ってスマブラもした。でも、ふと心を落ち着けた時に考えるのは、ゲームの世界のことだった。物語や音楽に、心を動かされた。小学3・4年生ぐらいのころだった。クロノトリガーをクリアしてエンドロールが流れるシーン、物語が終わってしまうことが悲しくて泣いた。

小5の時、運動場で寝転がって青空をみていると、雲がゆっくりと動いていた。「聞いてはいたけど、雲って本当に動いてるんだ」驚きと感動の入り混じる中、私は青空を眺め続けていた。美しい、と思った。快晴で、雲が全くない空よりも綺麗だ。10年も生きて、いつも目の前にあったのに、青い空の美しさにどうして気づかなかったんだろう。青空の中、少しずつ白雲が流れる。こういった、美しいと感じる気持ち。この世界の中で、自分を感じられる穏やかな瞬間のために、私はこれから生きていくのだろうと悟った。

小6の時、図書館で借りた、表紙が綺麗な小説を読んでいた。寝る前に読んでいると、気づけば物語の中に入り込み、気が付くと夜0時になっていた。いつも、22時には寝ていたのに。それまでほとんど読んでこなかった小説というものに感銘を受け、卒業文集には「小説家になります」と書いた。


兄弟と比較すると、私は普通ではないことが多かった。

習い事はすぐにやめるし、部活も続かない。家では音楽を聴きながら、ネットゲームに夢中になる。友人の誘いも断ることが多かったし、ネットゲームばかりやってメールの返事を返さなかったらフラれたこともある。ニートや引きこもりだった期間もある。

正直、かなり社会不適合なのだと自覚している。でもそれを嘆くつもりはない。ただ事実として自分と他人との違いを感じている。だから、自分が生きやすいように、やりたいことをできるように、日々模索していくしかない。

私の中に、常に動き回っている者がいる。
それは、物語を求め、音楽を愛し、自然の美しさを感じようとする者である。おそらく、それが私の正体である。世界に散在する芸術や自然を追い求め、今度は自分で思い浮かぶ、理想や空想を表現したい。私がやりたいことは、ただそれだけなのだ。


2023年末、父にねぎらいのLINEを送る。「(中略)いろいろと迷惑をかけましたが、ありがとう。」メールは苦手で、こういうのはどうしても形式ばってしまう。家族のグループLINEがあるが、実際には私以外の4人の交流の場である。私は年に数回、生存確認や帰省時の連絡をするだけで、あとは見る専だ。

兄や姉は家庭を持ち、仕事も順調のようだ。一方で、私は子どもは作らないし、おそらく家庭も持つことはない。とにかくまずは、静かな土地に引っ越し、穏やかに暮らすことが先決である。なんて言ったって、小学校の卒業文集で小説家になるって書いてしまったから。

それから、音楽もやりたい。高2の頃に貯金全額出して電子ピアノを買ってから、もう15年が経った。夜中や明け方、へたくそなピアノを弾いても怒られないような自分の場所が欲しい。


これからも心の内の私に人生を先導してもらう。君がやりたいことをすればいい。私は君を見守り、応援している。なぜなら、君は、私だからだ。


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