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『影の車:田舎教師』(松本清張)を読む

良吉は、父親から聞いていた中国山地の山奥にいる親戚を訪ねてみた。親戚の杉山俊郎は医者で、地域の信頼も厚く、田舎ながらに裕福だった。しかし訪ねたその日に俊郎が事故で亡くなったことを知る。生活道路の崖沿いの道から崖下に落下したのだが、どこか腑に落ちない。俊郎はその日、戦前満州で羽振りの良い暮らしをしたものの、戦後無一文で帰省した兄弟の博一の家に診察に行っていたのだ。

終戦を迎え無一文となってしまう弟。それはそれで仕方ない。しかし彼は、安定した生活と厚い人望を得ていた兄に嫉妬してしまう。

これはコロナ禍の今の時代でも進行形の物語かもしれない。助け合いましょう、協力しましょう、とはいうのもも、みんな自分の生活を守るのに精いっぱいになってきている。

他人の生活を恨んでも仕方ない。隣の芝生は青く見えるものだ。