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【短編】 登山のご縁#1(感染症)


令和2年の初頭からコロロ感染症の恐怖


世界中が混沌としていた。テレビニュースからは、閑散とした観光地が映し出されていた。
そんな不穏の中で、恵麻は第1志望の高校に合格し意気揚々としていた。しかし、入学してみるとマスク生活は続き、昼の会話のない静かな食事と校内の沈んだ雰囲気では、気の合う友人を作ることは困難だ、と五里霧中の心境だった。

隣り街では、海外在住の邦人女性がコロロ感染を危惧し、帰国して実家で過ごしていると噂がたった。暫くすると、彼女は何処からとも無く誹謗中傷を受け、家に石ころを投げられた、と実しやかに囁かれた。

多くの国民がコロロ感染を恐れ、ワクチン接種を我先にと電話予約をし、今か今かと待ち望んだ。任意とは言え高齢者や癌患者、医療従事者から接種が行われた。国民のコロロに対する恐怖心は増すばかりで、ワクチン接種は、次第に中高生にも拡大された。大抵の学生は、迷う暇もなくワクチンもマスクもすんなり受け入れた。受験生は、受験日までのカウントダウンと反比例して宿題が増えていき、感染対策に気を使いながら前進あるのみの様相だった。

恵麻は高校3年生になり大学受験に向け黙々と勉強をしていた。

クラスに学習塾も同じ所に通う由美がいた。容姿端麗、頭脳明晰、人望など全てを兼ね備え『マドンナ』と称されていた。

塾の授業を終え、帰り支度をしながら由美が尋ねた。
「ワクチン打ったの」
「うちはママが過去の苦い経験から現代医学に懐疑的なの」
「なるほど、ワクチンを疑問視してるんだね」
「その通り『治験も終わってないし、訳の分からないワクチンなんて駄目よ』と言ってるわけ」
「苦い経験とは?」
「私がまだ2才の頃、仕事と育児で疲れが溜まり風邪を拗らせ寝込んでしまったらしい」
「女性は大変よねー」
「なかなか治らず、追加の薬を処方してもらい2週間飲み続けたら、身体に発疹ができて、皮膚科に行ったらしいの」
「まぁ、痒みはなかったの?」由美は興味津々の表情で聞いてきた。「耐えられない程の痒みがあって、医師からは『最近、何か薬を飲みましたか?』と聞かれたらしい」
「それで、それで」
「2週間毎日、病院の風邪薬を飲んだと伝えると、風邪薬の抗生物質の副反応の話があり『悪い菌もやっつけるけど、良い菌までもやっつけて免疫力が落ちるから、薬をやめて暫く様子をみなさい』と言われて驚愕したんだって」
「なるほど、素人に分かり易い説明で勉強になるね」 
「という事でワクチンは、打たせてもらえません。クラスで打ってないって言ったら、総スカンかもね。ネットで検索すると、賛否両論あるからもっと調べてみるつもり」
「調べ過ぎて、宿題に影響が出ないことを祈ります」由美は悪戯っぽい笑みを浮かべ合掌をした。
二人がそれぞれの母親の車で塾を出たのは、夜の10時が過ぎ初秋の夜風が冷たかった。

帰宅して遅い夕食をいつものように、母の洋子と二人でとっていると、珍しく父親が早く帰って来た。3人でテーブルを囲むことは久々だったが、あまり会話が弾まなかった。恵麻は何やら只事ではない父親の表情が気になりながらも、特にいつもと変わらない雰囲気でサラッと話を済ませ、そそくさと風呂場へ移動した。

つづく



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