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タイ南部国境県テロ取材「今日も現場にいます」

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世界有数の観光立国、微笑みの国のタイの最南端は、長い間テロが続くムスリムたちの土地。バンコクからマレーシア国境まで1,300キロ超、いつ終わるとも知れない当地テロを2004年から… もっと読む
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2018年3月の記事一覧

Chapter 10 再び赤色地域、山あいのテロ重要拠点

Chapter 10 再び赤色地域、山あいのテロ重要拠点

「そうだよな、ルーソだよな」。バーチョの後、例のフレンドリーな部下に段取りしてもらったのがナラーティワート県ルーソ郡。今回も彼の希望が多分に反映されている。ちなみに彼の身分は「記者」。軍の中でも記者という職務があるらしい。

 マレー系分離独立派組織はたいてい、山がちな農村地帯を拠点とする。(例のバーチョがある)ヤラー県バンナンサター郡、今回のナラーティワート県ルーソ郡、同県ラゲ郡やスンガイパーデ

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Chapter 11 銃も撃てて爆弾も処理できる女性EOD隊員

Chapter 11 銃も撃てて爆弾も処理できる女性EOD隊員

 「暇だから買いものにでも行きましょう」。
2008年3月29日、当時の警察に4人、陸軍に1人とタイに5人しかいないといわれた女性爆発物処理隊員の1人、スィリネート・トーンアラーム警察上級曹長(Police Sergent Major, Siriphet Thongaram)に声を掛けられた。ヤラー県ヤラー市内、南部国境県のテロ事件のみを取り扱うタイ警察のコマンドセンターで同行取材を続けていたのだ

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Chapter 12 「オレの写真を撮れ」 メディアへの露出が出世のカギ

Chapter 12 「オレの写真を撮れ」 メディアへの露出が出世のカギ

 2008年6月27日、ヤラー県ヤラー市内の警察第9管区トレーニングセンター内のタイ警察オペレーションズセンター前線本部。隊員(警官)たちが、警察車両を運転中にテロ攻撃を受けた際の退避方法を訓練していた。用意されていたのはピックアップトラック。急ブレーキ、急後退、急回転など、狭い道路でも退避が可能なハンドルさばきを身に付けるというものだが、誰もが急回転で大きな円を描いてしまい、苦労していた。その中

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誰と戦っているのか分からない Chapter 1 「酒もあり豚もあり」仲の良い仏教徒とムスリム

誰と戦っているのか分からない Chapter 1 「酒もあり豚もあり」仲の良い仏教徒とムスリム

 「ディスコに行こう」。
2010年8月29日、ヤラー県ヤラー市在住の仏教徒に誘われた。彼女はソンクラー県出身、33歳。旦那はナラーティワート県出身で、かなり歳上だという。同じく仏教徒。昼間はしがない茶店でドリンクを売っている。棚にはアルコールも並んでいる。

 隣はムスリム専用の飲み屋。アルコールがあるから飲み屋と呼ばれている。地元の人はなぜか、ムスリム専用の飲み屋が存在することを不思議に思って

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Chapter 2 何となく原点を振り返る

Chapter 2 何となく原点を振り返る

 2004年にいきなりテロが頻発し、不謹慎ながら喜々として取材に通い、何となく原点を振り返ってみる。テロはなぜ再び起きたのか? 過去十数年にわたって沈静化していたのになぜ、2004年1月4日ナラーティワート県のナラーティワート・ラーチャナカリン陸軍駐屯地で襲撃事件が起き、再び激化したのか。

 マレー系分離独立派組織とみられる武装グループ約60人が駐屯地内の軍兵器庫を襲撃、兵士4人を殺害して銃器3

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Chapter 3 タクシンの麻薬戦争が南部国境県テロ激化の一因

Chapter 3 タクシンの麻薬戦争が南部国境県テロ激化の一因

 タクシン首相のテロ否定は以前からのものだ。2002年4月、マレー系分離独立派組織のテロ活動が「止んだ」として、南部国境の治安維持を目的とした「南部国境県管理センター(The Southern Border Provinces Administration Center, SBPAC)」と「第43文民・軍・警察部隊」の解体を決定。南部国境県での中央政府の権限が他地域並みに強化されたた。これも後のテ

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Chapter 4 テロが延々と続くきっかけに 南部国境県テロを象徴する3つの事件

Chapter 4 テロが延々と続くきっかけに 南部国境県テロを象徴する3つの事件

 テロ激化当初、3回の大きな事件が発生した。その後も大小さまざまなテロが起きているが、2004年初年の3つの事件は、テロを巡る南部国境県のさまざまな問題を浮き彫りにした。いずれの事件も真相が分からず、今でもさまざまな憶測が飛び交っている。

《軍武器庫襲撃事件》

 マレー系分離独立派組織の武装グループ60人がピックアップトラックの荷台に乗って駐屯地に突入、武器庫管理の兵士4人を殺害して武器を強奪

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Chapter 5 警察から再び説教

Chapter 5 警察から再び説教

 2008年年12月13日、ヤラー県ヤラー市内の南部国境県のテロ事件のみを取り扱うコマンドセンター。この日、取材申請なしにコマンドセンターに入っていった。顔見知りの女性爆発物処理隊員のスィリネート警察上級曹長に、正式な取材でないことを告げ、敷地内を見て回っていいかと確認する。運動場で警官100人ほどが対テロ訓練を行なっていたので、それを見に行きたかった。彼女は「写真を撮るんだったら許可を得てから。

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Chapter 6  さまざまなテロの手法-1

Chapter 6  さまざまなテロの手法-1

 テロの種類はさまざまだ。マレー系分離独立派組織はありとあらゆる手法で治安部隊と対峙している。

《バイクからの銃撃》

南部国境県のテロでは、バイクでターゲットに近づいて銃を乱射するという手口が非常に多い。狙われるのはバイクや車で移動中の軍や警察の治安当局、役所勤めの公務員、学校の教師など。通勤時間や通勤路を決めて規則正しく生活していると、より待ち伏せされやすい。公務員、教師、記者なども護身用の

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