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らくがき

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記事一覧

らくがき「セピア・フォトグラフ」

 色褪せた花なんか要らないよね。モノクロの映画も、要らないね。長いレシートも、要らないね。君の子供も、要らないね。

 季節が、巡る。のっぺり、べったり、いつまでも乾かない水糊で、曖昧に貼り付けた笑顔で、毎日毎日、同じ話を、同じことを、繰り返しているだけなのに。社会が進む。私は、ずっとずっと、いつまでも、空の色や、月の裏や、同じ夢を、見ていたいだけなのに。なのに、でも、だから、また、何度も、何度で

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らくがき「ひだまりのスープ」

 わたしたちは、ずっと友達。ずっと、ずっと、ずっと、生きても、死んでも、ずっと友達。
 そんな、叶わない、夢を見る。

 スープを作る、夢を見る。わたしたちは、二人で海には、行けなかった。碧い、碧い、割れた宝石みたいな、海の砂の、夢を見る。飲まずに捨ててしまったビールの、短くなったタバコの、壊れたスマートフォンの、傷だらけのこどもたちの、まっくろの花束の、夢を見る。恋の色をした粉を纏った、きらきら

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らくがき「オフホワイト」

 外から帰ったら手を洗う。汚いものを触ったら手を洗う。きれいになるまで手を洗う。
 君が見ているから、手を洗う。

 死んだ人は、星に、星座になる。光って、終わって、また光って、そうしていつか私以外のみんなのためのくだらないくだらない物語になってしまう。君は、なってしまった。夏も、夜も、夢から覚めたみたいに、魔法が解けたみたいに、砂糖が溶けたみたいに、いつの間にか終わってしまって、天使の羽を引き毟

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らくがき「ひからない」

 ひからない、ひからない、ひからない

 光は明るくて、眩しくて、速い。どこかの神様とやらは世界を作るとき、はじめに光を作ったらしい。そんなものは、無い方がいい。きっと、無い方がいい。

 椅子に光が当たっている。椅子は光っていない。産毛に光が当たっている。産毛は光っていない。ピアスに光が当たっている。ピアスは光っていない。友達に光が当たっている。友達は光っていない。光っていないのに眩しくて、光っ

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らくがき「変身」

 蜂蜜をスプーンで掬う。大さじ一杯、正しい量をこえてはどろりと溢れて瓶の中に帰っていく。まだ足りない。
 蜂蜜、蜜蜂が作っている、きれいな甘い琥珀色。働き者の虫のおかげで甘くて美味しいものが食べられて、幸せだ。怠け者の私のおかげで甘くて美味しいものが食べられて、幸せだ。毎日こんなに幸せで、少しでも早く楽になりたい。まだ足りない。
 カーテンの隙間からは硬い光が冷たい床に落ちている。クッキーが入って

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らくがき「モノクローム」

 花束なんか要らないよね。うちには花瓶なんか無いし、要らないね。もらったことも無いし、要らないね。黒く枯れるだけだし、要らないね。

 最近、あたたかくなってきた。どうやら世間は春らしい。早く追いつかないといけない。ちらほらと桜が咲いていて、暫くの間は持て囃されて、何度か雨が降ったら散るだろう。

 三月は嫌い。終わるから。
 四月も嫌い。始まるから。

 新生活とか新社会人とか、そういうのがとて

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らくがき「つみきくずし」

 自分の内側に空いた穴に落ちていくような感覚を求めている時がある。いや、落ち込んでいるのではなくて、落ちたいのだと思う。

 くずれてしまった後の積み木やジェンガとか、お気に入りだったのに鎖が絡まって使えなくなったアクセサリーとか、ティッシュの箱の隣で枯れて黒く腐っていくだけの切花とか、そういうものを片付けられずに捨てられずに汚れていく部屋とか、そこから目を逸らせば見えるベランダで真っ二つになって

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